- 2020.08.07
- 2016.12.12
企画展「第19回CSデザイン賞展」
装飾用シートの新たな可能性を求めて
東日本橋にあるCSデザインセンターにて、CSデザイン賞の入賞作品を紹介する展覧会が始まっています。
CSデザイン賞とは、カッティングシート®などの装飾用シートを使った作品を広く募集し、厳正な審査を経て選ばれた作品を表彰するものです。実際の事例作品による一般部門と、テーマに沿ったデザイン提案にをする学生部門に分かれ、2年に一度、開催されます。
▲ ポスターは、1988年の第5回以降、永井一正氏(前審査委員長)がデザインを手がける
今回の展覧会も前回同様に、2部門の上位作品のデザインを実際にシートを使って再現しています(前回のCSデザイン賞展レポート)。どの部分がシートなのか、解説文を読む前に探してみるのも一興です。
いまだかつてないシートの使い方
上の写真は、一般部門のグランプリ作品「ハイツYの修理」の一部を再現した会場。下の写真が実際の空間です。作品名の”修理”の意味と、受賞者の氏名については結果発表ページに詳細を譲るとして、いったいどの部分に装飾用シートが貼られているかわかりますか?
▲ 一般部門 グランプリ受賞作品「ハイツYの修理」(以下、竣工写真3点の撮影:増田好郎)
実は、応募用紙を見た社員ですら、最初はシートの使われ方が判らなかったというこちらの作品。
正解は『間仕切り壁のラワン合板の上に「IROMIZU」貼られている』です。
改めて、間仕切り壁に着目してください。表面に光沢があるのがわかるでしょうか。上の竣工写真でいうと、向かって右側にあるベランダの存在がうっすらと写り込んでいます。木の素材感を残す表面仕上げとして多用されるクリア塗装では、このような写り込みや光沢は出ません。
▲ ラワン合板の表面に光沢感が出て、シャツや天井照明の光が写り込んでいます
▲ カーテンはシーチングによるオリジナル。床はA4サイズのセルフメイドコンクリート合板
「ハイツYの修理」のように、合板の上に透明の装飾用シートであるIROMIZUを貼った事例はこれまでありませんでした。審査委員を長く務めている佐藤卓氏も「かなり地味な使い方だが、このような表現は今まで見たことがない」と高く評価(審査講評より)。95の応募作品の中から、住宅作品として初のグランプリに選ばれました。リノベーション事例としても初の入賞です。
▲ 「ハイツYの修理」における「IROMIZU」の重なり部分。壁のアクセントとなっている(撮影:増田 好郎)
一般部門 原研哉 審査委員長による審査講評(一部抜粋)
「透明のシートを貼るわけであるから、一見大した変化には見えないが、見慣れた合板の木肌が光沢を帯び、周囲がそれに映り込むことになる。微差ではあるが、これによって木の肌や空間の質が一変するのである。微差を丁寧につきつめて、空間のリアリティを大きく変えている。この狙い澄ました着想に今年は評価が集まった」
住まい手に寄りそうカッティングシート
「ハイツYの修理」は、建築家、デザイナー、特殊大工らがアイデアを出し合い、協働作業を重ねて竣工しました(参考:【CSデザイン賞受賞者インタビュー】あらかじめ間違っておくことで、建築は自由になる-木村松本建築設計事務所 [1] [2] )。
▲ 10月18日に国際文化会館で行われた贈賞式に出席したグランプリ受賞者(中央の4名:木村吉成氏、伊藤智寿氏、山本紀代彦氏、加藤正基氏。右端:一般部門 審査委員長 原研哉氏、左端:中川ケミカル社長の中川興一)
「厳しい予算の仕事でしたが、『ものの価値は金額ではなくアイデアで決まる』という認識を設計メンバー全員が共有していました。例えば、主に下地材としてで使われるラワン合板は廉価でありふれたものですが、そこにIROMIZUという比較的高価な材料を通常とは異なる使用=誤用することで既知の素材を未知のものにして、空間の質に影響を与えられるのではないかと考えました」と、施主から最初に設計を依頼された、木村松本建築設計事務所の木村吉成氏は語ります。
「店舗やオフィスと違い、住宅は人が日常を過ごす場所です。住まい手が毎日、目にするこの壁は、刻々と変わる光の表情を映し出し、部屋の奥まで明るくします。そしてシート下のラワン合板は、経年の変化を住まい手に見せてくれるでしょう」(木村氏談)。
人々の暮らしを実直に支え、時に華やかに彩る
会場ではこのほかの入賞作品も紹介しています(詳細はCSデザイン賞公式サイトをご覧ください)。上と下の写真は、準グランプリを受賞した3作品です。
▲ 一般部門 準グランプリ受賞作品「MIDTOWN CHRISTMAS 2014」の再現
「MIDTOWN CHRISTMAS 2014」は、東京ミッドタウンのクリスマスシーズンを彩ったグラフィックのひとつです。手描きのイラストを忠実に反映させるため、ゆっくり丁寧に一晩かけてカッティングプロッターでカットしたシートが、メインエントランスのガラス扉に貼られ、来館者を出迎えました(作品コンセプト詳細:JDN記事【CSデザイン賞受賞者インタビュー】表現に込めるのは「温かさ」と「上質感」ー関本明子)。
▲ 一般部門 準グランプリ受賞作品「空間を色で着せ替えよう!展 Sogen office」の再現
「空間を色で着せ替えよう!展 Sogen office」は、昨年8月に発売されたカッティングシート®の新色を展示テーマごとに使い分け、カフェ、オフィス、キッズスペースというそれぞれ異なる空間にガラリと「着せ替え」た企画展。ARTICLEのレポートでもご紹介しました。
▲ 一般部門 準グランプリ受賞作品「ブルーウェーブテクノロジーズ宇部工場 サイン計画」の一部再現
▲ 優秀賞(3作品)および中川ケミカル賞(3作品)の展示
学生部門のテーマは「遊び心で人と渋谷をつなげる『仮囲い』」
学生部門では、これまで何度か募集している工事用仮囲いがテーマでした。ただし今回は、渋谷駅および周辺で進行中の再開発現場で使うことを前提とし、上位作品は特典として実際に施工もされています(協力:渋谷駅前マネジメント協議会)。269作品の中から選ばれた、金賞を含む3つのデザイン案が、約3か月にわたって仮囲いとしての役目を果たすと同時に、街を行き交う人々の目を楽しませてくれました(展示は10月20日より順次終了)。
▲ 学生部門 金賞「網線 Halftone line」(JR渋谷駅と各線を結ぶ東口地上構内)
学生部門 菊竹雪 審査委員長による審査講評(一部抜粋)
「渋谷という漢字が構成する横線・縦線・斜線を抽出してシステム化し、ビビッドな色彩と線のリズム感で自在な展開・構成を可能にしている点が高く評価された。」
▲ 学生部門 銀賞「Hitomoji」(渋谷3丁目-22)
菊竹雪 審査委員長による審査講評(一部抜粋)
「人偏(にんべん)の漢字から『イ』部を空白にして、そこに人が重なってはじめて、文字が完成するというユーモアに富んだ発想の提案」
▲ 学生部門 銅賞「めくるめくめくるむこう」(渋谷東急プラザ工事現場 北側仮囲い)
菊竹雪 審査委員長による審査講評(一部抜粋)
「壁の向こうを予感させるように、白い壁がめくれて鮮やかな色彩が表れる明快なグラフィックの提案。カッティングシートの素材感を表現している点にも好感が持てた」
銀賞2作品のひとつ「Geometrick」は、展覧会場で再現されています。
▲ 学生部門 銀賞「Geometrick」
菊竹雪 審査委員長による審査講評(一部抜粋)
「ミラーシートを使用して渋谷の風景を借り囲いに映し、その上にシルバーホワイトの幾何学形態を配置することで、より風景に意識が向くように計画している。コンセプチュアルで新鮮なアイディアであり、精度の高い提案であった」
▲ 1/12のミニチュアサイズで紹介した学生部門上位入賞作品のコーナー
▲ 学生部門 入選作品の展示
時代とともに歩む装飾用シート
カッティングシート®が誕生して50周年という節目で開催された今回のCSデザイン賞。先月、都内で開催された授賞式の冒頭、主催者を代表して挨拶した中川興一社長は「発売を開始して5年間は全く売れず」「空港や当時の国鉄施設での採用を足がかりに、信用と実績をひとつひとつ積み重ねてきた」と、50年の歩みを振り返りました。いわば、日本経済の発展とともに歩んできた製品であり、需要に応えて新しい色やマテリアルを追加してきました。その施工事例の結晶である授賞作品は、時代を映し出す鏡のひとつと言えるでしょう
賃貸住宅のリノベーションがグランプリに輝いた2016年のアワード。「こういう使い方があったのか!」と審査委員たちを唸らせるデザインが、これからも生まれてくることを、主催者一同、期待しています。
▲ 一般部門 グランプリ 受賞者に贈られるトロフィー(デザイン:五十嵐威暢)
▲ 一般部門の受賞者に贈られる楯は、今年2月に発売されたマテリオシリーズの「箔シート」の銀箔、銅箔、青銀箔、を取り入れたデザイン(昨年は「IROMIZU」を使用)
企画展「第19回CS デザイン賞展」
会期:2016年10月18日~2017年1月20日
休館:土日曜祝日、年末年始
会場:中川ケミカル CSデザインセンター(東京都中央区東日本橋2-1-6 3F)
開館:10:30~18:30 入場無料
CSデザインセンター http://nakagawa.co.jp/showroom/