富山県美術館にて、テキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんによる「富山もよう」の展覧会が開催され、会場の壁一面に「富山もよう」がカッティングシートで装飾されました。その様子を鈴木さんと一緒にC子とS夫がレポートします!
鈴木マサル プロフィール
1968年千葉県生まれ。多摩美術大学染織デザイン科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立、2002年に有限会社ウンピアット設立。2004年からファブリックブランド OTTAIPNU(オッタイピイヌ)を主宰。色鮮やかなハンドプリントによるファブリックを中心に、タオルやバスマット、ハンカチ、傘など、生地本来が持つ魅力にあふれたコレクションを展開。2009年よりフィンランドの老舗ファブリックメーカー Lapuan Kankurit(ラプアンカンクリ)、2010年よりMarimekko(マリメッコ)のデザインを手がける。
自身のブランド以外にも、マリメッコ、カンペール、ユニクロ、ファミリア、zoffなど、国内外のさまざまなブランドメーカー、ブランドとのプロジェクトに参画、テキスタイルの領域を超えて活動中。空間デザイン領域での仕事も多数。
主な受賞に、「富山もようプロジェクト」で第35回新聞広告賞(2015年)、「鈴木マサルの傘 pop-up store 2018」にて中川ケミカル「第21回CSデザイン賞」準グランプリなど。
主な著作:『鈴木マサルのテキスタイル』(誠文堂新光社、2016)、『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』(2021年、出版社調整中)など。
現在、東京造形大学造形学部デザイン学科教授。
OTTAIPNU公式ブログ:テキスタイル獣道 https://ameblo.jp/ottaipnu/
今回の取材先は・・・富山です!「みんなの富山もよう展」
S夫:受賞者インタビューをしたいところですが、今回は、富山で開催された展覧会について話をうかがいます。
鈴木:富山県美術館にて「鈴木マサルのデザインとみんなの富山もよう展―暮らしにとけこむアート&デザイン」を6月22日まで開催しております(以下、「富山もよう展」と略。展覧会は終了しています)
C子:富山はこの時期、白えびが旬ですよ!
鈴木:おいしいですよね。「SHIROEBI」は「富山もよう展」のデビュー柄の1つです。
▲ 「tateyama」
▲ 「shiroebi」
▲ 「garasu」
▲ 「mizu」
富山もよう展ディレクターズ:小柴尊昭、鈴木マサル、高橋 理、川上典李子
「富山もよう」公式サイト:https://toyamamoyou.jp/
「富山もよう」とは?
S夫:「富山もよう」とは、富山が誇る自然や食、文化といったさまざまな事象をモチーフに、鈴木さんが絵柄をデザインしたものです。
C子:白えびとか、海鮮とか(じゅるる)。
鈴木:2014年8月に4柄でデビューして、まもなく7周年。不定期ながら新柄を年1ペースで加えて、今春で12柄になりました。
▲ 「富山もよう」全12柄(2021年4月時点)
S夫:そもそもは、北日本新聞の創刊130周年に向けて始まった企画でしたよね。
鈴木:そうです。富山の魅力を「もよう」にして、カラー印刷した「富山もよう」にくるんだ朝刊を、創刊記念日の朝から4日連続で配達するというイベントでした。数ある富山の名産・名物から厳選して、TATEYAMA(立山連峰)、SHIROEBI(白えび)、GARASU(ガラス)、MIZU(豊かな水の流れ)の4つでデビューしました。
C子:いつもは白黒の新聞が、こんな素敵なラッピングで届いたら、一発で目が覚めちゃう!
▲ 北日本新聞社 新聞創刊130周年記念号(2014年8月) 撮影:小柴尊昭
大反響を呼んだ「富山もよう」
鈴木:プロダクトは我々がディレクションして商品展開しているのですが、これとは違うムーブメントが2014年当初からありまして。
S夫:それは、「富山もよう展」で展示されているエコバックのことですね。
鈴木:もうね、素人さんとは思えないレベルなんですよ。捨てずにとっておいてくれるだけでも嬉しいのに、プレゼントラッピングに使ってくれたり。配達所に「もっと欲しい」という問い合わせが殺到したとか。
C子:わかります。額に入れて飾って、部屋のインテリアにしたくなりますもん。
鈴木:チームの誰も予想していなかったことでした。おもしろかったのは、僕が富山のガラス工芸をモチーフにした「GARASU(ガラス)」から、この絵柄そっくりなガラスの器がつくられたりしてですね。
S夫:そ、それはデザイナーさんとしてOKなんですか? いわゆる著作権の問題は?
鈴木:一応権利は管理しているので事前に承認が必要になるわけですが、いい形で広がって行くと良いと思っています。エコバックとかも、むしろ元の柄なんかわからないくらい、どんどん切ったりしてつくってくれた方がカッコいいです!
S夫:と、言い切る鈴木さんが最高にカッコいいです。
鈴木:使う人がいることで、また新たな「生」をもらう。生活の中で生かされていく。「富山もよう」ではそういう人とモノとの関係性がとても素敵だと思っています。いろんな人がいろんなものをつくってくださって、本当に嬉しかった。
S夫:だから、今回の富山での展覧会は「みんなの富山もよう展」なんですね。
▲ 「鈴木マサルのデザインとみんなの富山もよう展―暮らしにとけこむアート&デザイン」会場エントランス 通路の壁には全12柄が並ぶ。 撮影:大木大輔
▲ 会場風景 壁面には「富山もよう」の柄がカッティングシートで装飾されている。 撮影:大木大輔
カッティングシートで空間に展開する「富山もよう」
C子:「富山もよう」の柄、柄、柄! ですね!
鈴木:訪れた人が、もようの中に分け入っていく感じをイメージしました。小人になって、富山もようの森を進んでいくような。
S夫:天井から吊り下げられているのが、エコバッグですね。
鈴木:そうです。今回はこのエコバッグと共演したかったので、すごく嬉しいです。
▲ 会場風景 天井からエコバッグが吊り下げられており、奥の壁には「富山もよう」を拡大したカッティングシートが貼られている。 撮影:大木大輔
S夫:いやー、私どもも嬉しいです。こんなに大きく派手にカッティングシートを使っていただいて。
鈴木:はい。壁に、ばばーんと!
S夫:これほど大胆なサイズで使われるのは滅多にない。しかも単色なのに、空間に負けてない!
C子:ひとえに「富山もよう」の絵力(えじから)ですね。
鈴木:商品で展開しているのはもっと小さいサイズなんです。タオルハンカチとかクリアファイルとか。それを、倍率1000%とか、今まで指定したことのない数字で拡大したので、実は内心でドキドキだったのですが、うまくいきましたね。
S夫:カッティングシートであれば小さいイメージから、空間のような大きいものへも展開することができます。
▲ カッティングシートを使用した展覧会場の壁の装飾 / 赤:RAICHOU(雷鳥)、青:KAISEN(海鮮)、黄:KAMOSHIKA(日本カモシカ)、ピンク:TULIP(チューリップ) 撮影:大木大輔
C子:倍率1000%なんてサイズでよく製作できましたね。
S夫:こらこら、C子さん、何年この仕事をしているんですか。つないで貼っているに決まってるでしょう。
C子:すごい! こんな大きな絵柄なのに、つなぎ目がわからないです!
S夫:現地の業者さんによる施工ですが、とてもキレイに施工できてますね。
鈴木:ディティールにもこだわっています。施工は大変でしたが、満足のいく仕上がりとなっております。
「鈴木マサルのデザインとみんなの富山もよう展―暮らしにとけこむアート&デザイン」
会期:2021年5月17日(月)~6月22日(火)
会場:富山県美術館 1F TADギャラリー(富山県富山市木場町3-20)
主催:富山県美術館、富山もようプロジェクト(富山もよう展ディレクターズ、北日本新聞社)
制作協力:日本折紙協会富山県支部「遊々」、北日本新聞有沢販売店
協力:D&DEPARTMENT TOYAMA BiBiBi & JURULi
制作企画・監修:富山もよう展ディレクターズ:小柴尊昭、鈴木マサル、高橋 理、川上典李子
グラフィックデザイン:高橋 理
テクニカルディレクション:遠藤豊(LUFTZUG)
展示デザイン協力:坂元夏樹
PR:山本真澄
「富山もよう」制作の裏側
鈴木:奥の展示室では、2つのスクリーンで映像を上映して、あと原画も展示しました。
S夫:原画は貴重ですね!
鈴木:恥ずかしいので、ギリギリまで抵抗したんですけど。
C子:そういうのが見たいんですよー♪ メイキングとか、舞台裏とか。
鈴木:映像では、僕が実際に描いているとこまで撮られてしまって(恥)。
▲ 「富山もよう」を描く鈴木マサルさん 撮影:大木大輔
S夫:ふだんから、手で描いてデザインされているのですか?
鈴木:アナログ人間なので(笑)。富山もように限らず、デザインのラフをペンタブで描くことも増えましたが、最終のデザインは必ず絵具で描いて、それをパソコンに取りこんでデーター化しています。
C子:この原画、Gallery AaMoでの「幻の展覧会」でも展示してましたよね。インスタライブで見ました。
S夫:し、C子さん、その話はしないほうが。
鈴木:これまでに手がけた仕事を総覧してもらえる、過去最大級の個展だったのですが、コロナ禍で緊急事態宣が出て、開幕を断念することに(TnT)。
幻の展覧会「鈴木マサル展 色と柄を、すべての人に」
鈴木:設営は終わっていたので、オープンできなかったのは本当に悔しいです!
C子:なんてもったいない!
S夫:こちらの会場でもカッティングシートを使っていただいてました。
▲ 「鈴木マサル展 色と柄を、すべての人に」展 会場風景 撮影:三嶋義秀
鈴木:Gallery AaMoの会場は床面積が730m²、天井高も5mあって、大丈夫かな、埋まるんかいなと心配だったんですが。
S夫:インスタライブで拝見しました。大きい布がどどーん!と。
C子:傘もばばーん!と。
鈴木:大小いくつかの部屋に仕切って、ぐるりと一周できる動線を意識してレイアウトしました。
▲ 部屋を仕切る黒い壁には、キャプションとカッティングシートが貼られたスチレンボードが装飾されている。
鈴木:会場を回遊してもらうときに、先々に「靴下」があるよ、「バッグ」だよ「傘」だよと、続いていく展示の内容をイメージしたかたちを、7mmのスチレンボードにカッティングシートを貼って切り抜き、壁に取り付けています。
C子:インスタライブで、この展示解説の際に、某メーカーに向けて「色数もっと増やして!」と要望されていましたね。
S夫:どっきーん! (だからGallery AaMoの話はナシにしようって言ったのに)
背景色によるシート色の見え方
鈴木:メインの展示物を際立たせるために、キャプション周りの色は抑えめにしたかったんです。御社のシートは色数は確かに多いのですが、黒に近い渋い色となると少ないんですよね。
S夫:たしかに。
鈴木:設営のとき、色見本帳の色サンプルを会場の黒っぽい壁にあわせながら選んだのですが、どれも派手に見えてしまい、選定に苦労しました。
S夫:そうか。下地や背景の色によって、色が同じシートでも見え方が違ってくるから。
C子:ではここで突然ですが、S夫さんのミニミニ解説講座を。
S夫:周りの色の明度差によって、同じ色が違って見える現象を明度対比と言います。また、周りの色の彩度差によって同じ色が違って見える彩度対比という現象もあります。
C子:勉強になります!
S夫:ちなみに、カッティングシートのカタログには黒い面と白い面、黒と白のグラデーションが印刷された下敷きがついているので、これで色の見え方を確認することができます。
▲ カッティングシートAのカタログ チップの下に下敷きを敷くことで背景を黒に想定した色の見え方も確認できる。
鈴木:壁の黒とのコントラストの差が激しくならないように、もう少し明度彩度の低い色味が豊富にあったらよかったのになぁ。
S夫:貴重なご意見、しかと承りました。