- 2015.02.05
- 2016.09.06
企画展「HENGE 箔シート × toolbox」9月30日まで開催
現代アートのような会場
空間の真ん中にぽつんと置かれた白いクラシックトイレ、イーゼルとツートンカラーのキャンバス、足場板を積み重ねたベンチ ーー それらが点在する不思議な会場の手前には、古びた木枠のガラス建具が斜めに一枚。
CS DESIGN CENTERで7月29日から始まっている企画展は、まるで現代アートの展覧会のようですが、これらの"作品"はtoolboxが取り扱っている商品(※古建具、キャンパスとイーゼルは除く)であり、それに中川ケミカル・マテリオシリーズの新商品「箔シート」を貼ったものです。
素材の質感を大切にしたウェブショップ
toolboxとは、“空間を編集する道具箱”をテーマに、一般の方はもちろん、工務店、設計者向けに、こだわりの商品を販売するウェブショップです。2010年にオープンし、鉄や真鍮、古材といった、経年変化を楽しむ素材が多いのが特徴で、内装建材や建具、住宅設備機器、家具パーツから照明・小物まで家具多く取り揃えています。昨年9月には都内にショールームをオープン、500点以上の商品を実際に手にとって見られるようになりました。
単に売るだけではありません。toolboxの取り扱い商品には必ず実例写真とコラムが添えられ、完成後のイメージがわかりやすく提示されています。例えば、中川ケミカルの「鉄錆シート」を壁や扉に貼ってみた場合の写真など、DIYビギナーズからプロの設計・デザイナーまでそれぞれにとって参考となるアーカイブが日々蓄積されています。
(ホームページtop 2016年8月24日 時点)
toolboxと「箔シート」とのコラボ
今回のCS DESIGN CENTER 企画展「HENGE」は、toolboxでも購入できるアイテムの一部あるいは周辺を、様々な形に切りとった箔シートで装飾することで、これまでの箔=高級路線だけでない、金属箔の新たな魅力、箔シート使い方の可能性を伝えることを狙いとしたものです。
誰の身のまわりにもある、ありふれたモノたちが、金や銀、銅といった金属箔による装飾用シートを付加することで、見た目も雰囲気もガラリと"変化"します。斬新なコラボレーションの数々を見ていきましょう。
タイル×金箔シート
まずは来場者を迎える受付カウンターから。前板から側面にかけて白い二丁掛タイルで装飾しています。information の表示板は金の延べ棒? いいえ、同じ白いタイルの表面に「洋金箔シート」を貼ったものです(洋金箔とは、銅と亜鉛で金色を出したもの、別名真鍮箔)。文字はカッティングで白く抜いています。わざと凹凸を出しているタイルの小口部分にも「洋金箔シート」を細く切って貼り、見る角度によって表情が変化します。
フレキシブルボード×銅箔シート
展覧会挨拶文は「銅箔シート」のカッティング文字。ライティングを受け、グレーのフレキシボード上で赤銅色に輝いています。この金属ならではの光沢感が、現在8種類ある「箔シート」に共通する特徴です。ちなみに「銅箔シート」は、表参道にあるチョコレート専門店の内装の一部にも使われています。
ガラス×赤銀箔シート
古い木枠建具のガラスに描かれたサインと、枠にそった縁取りは「赤銀箔シート」によるデザインです。
▲オモテ面
装飾用シートと平滑なガラスとの相性はもとより抜群。シートを貼った裏側から見ても色味はほぼ同じなので、美しい仕上がりです。
▲ウラ面
現代の光×箔シート
フレキシブルボードの壁に取り付けられているのは、表面が素焼きのレセップ(ネジがきってあって電球を取り付けられるソケット)。そのまわりの円形の装飾は「洋金箔シート」です。受付カウンターで使われているのと同じシートですが、使う面が大きいと、箔目が際立ち、箔押しの技法で作られていることがよくわかります。
照明を点灯すると、箔ならではの鈍い光を帯びます。
明治から昭和にかけての文豪・谷崎潤一郎は、『陰翳礼讃』のなかで「金蒔絵は明るい所で一度にぱっとその全体を見るものではなく」云々と述べていますが、現代空間らしい「闇に浮かび上がる工合(ぐあい)」ではないでしょうか。
工業系レセップに「錫箔シート」(左側)と、開発中の「黒銀箔シート」(右側)のとりあわせ。レセップと箔シートとの異なるマテリアルの組み合わせの妙ですね。「銀」でも色と表情はさまざま、ぜひ実際に会場で違いを見比べてください。次に紹介する「青銀箔シート」は、眺める角度によって「青」であり「緑」にも見えます。
「箔シート」の現物は、会場内に用意されたサンプルで見ることができます。これをどのようにして貼っていったのかも、施工の様子を撮影したメイキング映像でわかります。これまでのARTICLEでも何度か紹介しましたが、三次曲面にシートを貼る場合にはドライヤーを使います。熱風をあててシートを伸ばすことで、かたちにあわせてきれいに貼ることができます。仕上がりに納得できなければ、メイキング映像の中の職人のように、剥がして何度でもやり直せます。
▲メイキング映像
木×金箔
映像を見るために用意されたベンチは、建築施工現場で足場を組む時に使わる木の板です。おしゃれなカフェやヘアーサロンの床などでよく目にする古材ですね(toolboxでは古材のほか未使用の足場板も販売しています)。この足場板の一部に、「洋金箔シート」がさし色として使われています。
追従性が高い「箔シート」
壁紙などと違って、貼る面をそれほど選ばず、下地となる素材の表情が生かされるのも「箔シート」ならではです。板の木目が浮き出て、シートを貼った部分が不思議な素材感をまとっていますね。
イーゼルに立てかけられた”作品”も同様です。キャンバスの折り返し部分をご覧ください。仮に塗装した場合、表面はぽってりと重くなり、金属らしい光沢も出ません。
それにしても、画廊で買ってきた白い生地の一部に「銅箔シート」を貼り、それ以外を大きく余白として生かしたこのキャンバス、現代アート作品といっても通用します。
金属の質感がそのまま文字に
カッティング加工による切り文字は、もとより装飾用シートが得意とする加工です。特にこの「箔シート」においては、金属のようにエッジの効いた美しい文字が可能になりました。今回の企画展では使っていませんが、前々回のARTICLE「奥深い日本の美を現代に伝える箔シート~伝統と革新が織りなす金と銀の光~」で、「純金箔シート」による切文字などの施工事例について詳しくお伝えしているので、ぜひそちらもご覧ください。
伝統の技×現代の技術
日本では古くから美術・工芸品に用いられてきた金箔や銀箔。しかしながら箔は高価な素材であり、極めて薄いために熟練の職人にしか扱えないものでした。そんな「箔」をもっと身近な存在として現代空間の中に取り込もうと、誰でも簡単に切ったり貼ったりできるようにとシート状に改良したのが、これら「箔シート」なのです。2015年に発売を開始し、まもなくtoolboxでも取り扱いを開始します。
▲左から 箔シート、鉄錆シート、緑青シート、フレークシート
本物の素材と職人技から生まれる「箔シート」
マテリオシリーズは「フレークシート」に始まり、続く「鉄錆シート」や「緑青シート」、そして「箔シート」も、いずれも本物の金属を原材料としています。ゆえにマテリオシリーズ(鉄錆シート以外)のお値段は時価、相場で変動します。
そもそもどのようにして作られているのか、気になりますね。製造過程を少しだけご紹介しましょう。
上の写真は「純金箔シート」の工程の一部、貴重な金箔を一枚一枚、職人さんが手作業で貼り合わせているところです。「箔シート」がパッチワーク柄をしているのはこのためです。製造に携わっている職人は一人だけではありません。何人も、幾重にも熟練の手技が重なって、中川ケミカルの「箔シート」は作られています。
モノに愛情をプラス
今回の企画展「HENGE」は、DIYやリノベーションを切り口に、シートを使って私たちの暮らしの空間を演出したものですが、似たようなこと、デザインは、おそらく誰でも一度はやってみたことがあるのではないでしょうか。例えば、バイクにステッカーを貼ったり、スマートフォンのケースにシールを貼ったり。最初は既製品でも、そこになにかひとつ手を加えることで、"自分らしさ"が加わり、モノへの愛着が生まれます。金・銀箔を貼った便器なら、毎日ピカピカに磨き上げることでしょう。昔ながらの生活の知恵として、私たちは割れてしまった茶碗を金で継ぎ、長く大事に使ったものです。
「HENGE展」の会期は約2か月、9月30日に終わるまでには大きな"変化"はないでしょうが、金属は年月とともに錆びたりして経年変化を楽しめる素材です。使い手とともにゆっくりと年を重ねていく、マテリオシリーズのシートで、あなたの暮らしのなにかひとつ、小さな"HENGE"を加味してみてはいかがでしょうか。
企画展「HENGE 箔シート × toolbox」
企画・空間演出:toolbox & SPEAC
会期:2016年7月28日~9月30日
開館:平日10:30~18:30
入場無料
休館:土日曜祝日、夏季休業期間
会場:中川ケミカル CSデザインセンター(東京都中央区東日本橋2-1-6 3F)
CSデザインセンター http://nakagawa.co.jp/showroom/
toolbox : http://www.r-toolbox.jp/