- 2020.08.07
- 2015.10.20
企画展レポート「空間を色で着せ替えよう!展」1stCAFE
東日本橋にある中川ケミカルのショールーム、CSデザインセンターで新しい企画展が始まっています。題して「空間を色で着せ替えよう!」です。
新色を使って会場構成
本展の主役となるのは、8月15日に発売になったばかりのカッティングシート®の新色です。ビビッドな色が中心のレギュラーシリーズに、繊細な白色系の「セレクテッドホワイト」や優しい色調の「ペールトーン」など48色が新たに加わり、表現の幅がさらに拡がりました。
これらの新色をつかって、CSデザインセンターのギャラリースペースを”着せ替え”ます。切って、貼って、剥がせるシートならではの空間展示です。
▲ 新色選定の監修およびロゴタイプ制作、カタログデザイン:原研哉
▲(左上) 白を基調とした「セレクテッドホワイト(5色)」左側は半ツヤ、右側はマット
(右上)「ニュートラルグレースケール(11色)」、上が半ツヤ、下がマット
(下) 「ペールトン」・「グレイッシュトーン」
シートで空間を着せ替える?
本展では、人々の暮らしのなかに実際にある空間をモデルとしています。第一弾はカフェ、続く11月にはオフィスに、来年はキッズスペースへと切り替わります。
三つの会場構成を連続して担当するのは、イガラシデザインスタジオの代表を務める五十嵐久枝さん。商業店舗の内外装設計、プロダクトや家具のデザインも手掛けるインテリアデザイナーが、シートを使ってどのように空間を着せ替えていくのでしょうか。
「お題に沿って店のコンセプトを設定しています。今回は会場がある土地の歴史性に着目しました。中川ケミカルの創業以来の地でもある馬喰町・東日本橋一帯は、古くから服飾関係の卸問屋の町として知られていますので、江戸の情緒を残したこの土地にふさわしい”問屋街カフェ”をオープンしました」と五十嵐さん。
江戸情緒が漂うカフェ空間
ショールームと、ギャラリースペースとオフィスを仕切るガラスのパーテーションを、五十嵐さんはカフェのファサードに見立てました。連続するパターン模様は、江戸小紋の吉祥紋様のひとつ「分銅繋ぎ(ふんどうつなぎ)」をアレンジしたものです。分銅のくびれの連続は水の流れのようで、中川ケミカルの”川”の文字を想起させます。
分銅紋様によるパーテーションは、受付前付近は濃いグレー、端になるほど薄くなっていきます。新色の「ニュートラルグレースケール」のバリエーションを活かした表現です。ファサードに沿ってみていくと、いつの間にか線と絵柄が逆転しているという、だまし絵のような仕掛けも施されています。
▲ 連続する「分銅繋ぎ」は「宝尽くし」という縁起柄のひとつ分銅のかたちは現代では銀行をあらわす地図記号
▲ オフィスからの光が洩れ、影が落ち、路地のような空間に
展示のみどころ
8月に発売された新色の大きなポイントは、淡い色、そして白のバリエーションが一気に増えたこと。この白を美しく表現し、そして微細な色のバリエーションを感じとってもらえるか、かつ実際のインテリアにも応用できるような空間デザインを五十嵐さんは考えました。
エレベーターを降りた来場者が、最初に目にするのが上の写真の画です。正面にある受付カウンターの前板は、新色の「セレクテッドホワイト」のマット調5色を使ってストライプ、背面には「ペールトーン」を配しました。
分銅模様で装飾された受付背面右側は、元は何の変哲もない棚なのですが、表側を乳半アクリルで覆い、内部に照明を仕込んで行灯のようにしています(照明の配線コードが見えない細かな工夫がプロの技です)。これは、街中に実際にあるカフェのように、店の奥にテラス席や光庭があり、その光がもれてくる、そんなイメージです。
さりげなく光るプロの技
メインとなるカフェ空間を貫く大テーブルも「セレクテッドホワイト」5色によるストライプです。貼る色の順番は厳密には決めず、現場で作業する職人のセンスに任せています。
でも、ちょっと待って。上の写真で受付カウンターとテーブルを見比べてみてください。テーブルのストライプの方が色が白っぽく見えませんか? ランダムで貼った色の順が違うから? いいえ、実は、前板部分とテーブル上では光の反射率もあてかたも異なるため、同じシートを使っていても色味が違ってみえるのです。「微細な白の差をわかりやすく出すには、垂直と水平で同じ仕様にして、見比べてもらうのが一番だろうと考えました」と五十嵐さん。
家庭でも使えるアイデアも
まるで宙に浮かんでいるようにもみえる長テーブルは、本展のために造作したものです。ボーダー状にシートが貼った、70cm×150cmのガラス板の裏に、イケアで購入したスチール製の脚を補強し、それを4つ並べて1枚の大テーブルにみせています。ボーダーに紛れて繋ぎ目はわかりません。ガラスはシートとの相性もバッチリな素材です。
ペンダント照明の素材は・・・?
3連のペンダントライトは五十嵐さんがデザインしたオリジナルです。五十嵐さんが教鞭を執る武蔵野美術大学主催のグループ展で、ミニシェルターとして提案した「多角形の展開」を、シェードランプにしつらえました。ランプのまわりに3-4人で腰を降ろした際、1つのドームにすっぽりと包まれるような大きさにしてあります。シェードの素材はグレーのダンボール(グレーダン)! 内側には新色のシートをパターン貼りしています。
▲ 「ニュートラルグレースケール」を貼ったランプはシックなしつらえ
▲ 「ペールトーン」のシェードは可愛らしく華やかな印象に。従来のシートではできなかった表現
シートに親しみ、くつろげるカフェ
木製のベンチに腰を降ろしてみましょう。通常の展覧会では展示作品に触れることはNGですが、本展では、ガラス天板に貼られたシートのテクスチャを体験することができます。
見上げると、電球の半分より下はアルミの鏡面仕上げに。「シルバーボール」という市販の白熱電球です。見上げた時に、光が直接目に入ってこないよう眩しさを和らげる効果があり、シートを貼ったシェードの内側を美しく演出しています。光はゆっくり明滅して、最も明るい時の色と暗い時のシートの色の見え方に差異を感じてもらえる、そんな演出も加えられています。
照明デザインの見えない仕事
会場の照明計画を担当したのは、ワイ・ツー・ライティングデザインの山下裕子さん。「今回の企画展では、新色カッティングシートが会場を包んでいますので、その空間全体をどうみせるか、新色がもっているイメージを空間としてどう伝えるかを五十嵐さんと一緒に考えました」
▲ 受付前のシェードランプも五十嵐さんと山下さんによる作品
さらには、
「ファッションや飲食店などの商業店舗では、商品本来の色、発色がより良くみえる光をつくります。ショールームでも同様ですが、今回の展示空間のなかで目にするカッティングシートの表情については、見本帳とは少し違って見えてくるような発見もしてもらえれば。新色の柔らかな雰囲気を引き出すライティングとなっています」
新色ならではの空間デザイン
五十嵐さんも「ふだんはあまりやらない」というデザインに挑戦しています。
「受付カウンターから会場の奥まで、一番大きくて目立つ壁面に、ペールトーンだけを貼りました。パステル色だけでまとめた場合、気をつけないと甘い雰囲気になってしまいがちです。でも今回は、思い切って大胆に、カラフルなパレットのようにしてみました」。
結果は、五十嵐さんの予想以上に上品な仕上がりに。
「シルバーボールを入れた幾何学形のランプとの並びでクールな雰囲気も出て、70年代っぽくもまとまったかなと思っています」。
シート表現の新たな可能性
店舗のサインや壁にビジュアルを描くときなど、実務の現場では必ずといっていいほどシートを使っているという五十嵐さん。それでも、これほどの色数を使ったのは今回が初めて。新たな発見もあったそうです。
「色そのものを貼ったり、細かい絵柄も出力できたり、多彩に貼れるというシートの強みを再認識しました。塗装では慎重になりますが、シートなら気軽にできます。商業店舗だけでなく、住まいの空間やインテリアにさまざまな色を織り交ぜても面白いのではないでしょうか」。
▲ シックなパターン越しに、パステル調の「ペールトーン」を眺めるという対比も
CSデザインセンターではこれまで、さまざまなジャンルで活躍中のデザイナー、クリエイター、アーティストたちとコラボレーションして、シートの可能性を広げるコンセプチュアルな企画展を数多く開催してきました。本展では、プロユーザーはもちろん、一般の方でも”ふだんづかい”に応用できるアイデアも盛り込み、マット(つや消し)も含めて新色の魅力が輝いた展示となっています。
「新色を引き立ててくれる光に包まれ、今まで以上にシートとの親近感が増した企画展になりました。ゆったりとくつろげるよう、カフェらしくお飲物もご用意しています。皆様のご来場を心よりお待ちしております」(CSデザインセンタースタッフ一同)
▲ 水をイメージした青海紋。カフェ空間として小さなテーブルセットも用意
企画展「空間を色で着せ替えよう!展」
空間デザイン:イガラシデザインスタジオ
照明デザイン:ワイ・ツー・ライティングデザイン
会期:
1stCAFE:2015年8月27日~10月30日
2ndOFFICE:2015年11月16日~2016年1月15日
3rdKIDSSPACE:2016年2月1日~4月28日
休館:土・日・祝
会場:中川ケミカル CSデザインセンター(東京都中央区東日本橋 2-1-6 3F)
開館:10:30~18:30 入場無料
CSデザインセンター http://nakagawa.co.jp/showroom