- 2015.02.05
- 2021.02.01
京都市京セラ美術館の「ガラス・リボン」をシートが彩った18日間
京都市京セラ美術館を含む、京都・岡崎エリアで、2020年12月3日から20日までの18日間にわたり、アートを通じて共生と多様性について考えるアートプログラム「CONNECT⇄ 」が開催されました。三人の作家が描いた作品を、美術館の顔とも言えるガラスのファサードに、シートを使って再現し、展示を行いました。美術館の館長である青木淳氏と、会場構成を担当した菊地敦己氏にそれぞれお話を伺いました。
アートを通じて訴求する共生と多様性
京都・岡崎公園一帯の美術館などが会場となり、毎年12月3日から始まる「障害者週間」にあわせて、アートを通じて共生と多様性について考えるプロジェクト「CONNECT⇄ 」が開催されました。同イベントは、障害の有無に関わらず、さまざまな感性・特性を持つ人たちが芸術や文化、歴史を楽しみ、参加した人たち同士がつながり合い、気づきを与え合う機会となることを目指すプログラムです。
会場の1つが、昨秋に改修工事を終え、今春リニューアルオープンした京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)です。メインエントランス周辺、および「ガラス・リボン」と呼ばれるガラスのファサードにて、関連展示「三人のガラス・リボン」を展開。開催趣旨に賛同した中川ケミカルでは今回、この展示に協力。三人の出展作家の作品を、シートを使ってガラスのファサード上に表現しました。
今春リニューアルした美術館の新しい「顔」での展示
本館のリニューアルと新館「東山キューブ」の基本設計を担当したのが、青木淳・西澤徹夫設計共同体です。青木氏は現在、美術館の館長も務めています。
京都市京セラ美術館は、敷地の西側で平安神宮の参道に面し、本館の東側には日本庭園を有しています。青木・西澤の両氏はこの参道と日本庭園のラインを結び直すとともに、参道に面した前庭をスロープ状に掘り下げて新たなエントランスを設けました。掘り下げたことで生まれた地下の層の断面にガラスを張った曲面が、青木氏が「ガラス・リボン」と名付けたファサード、街に対して開かれた、新しい玄関口です。
▲ 参道に面した前庭をスロープ状に掘り下げてガラスを張った曲面
ガラスのファサードをキャンバスに
「三人のガラス・リボン」は、このガラスのファサードをキャンバスとしています。全体の監修を京都市京セラ美術館の館長も務めている青木氏が、会場構成をグラフィックデザイナーの菊地敦己氏が担当しています。今回の企画展示について、お二人にお話を伺いました。
館長 / 青木淳氏との一問一答
ーーー問1. 今回の展示にシートを採用した理由を教えてください。
青木:「ガラス・リボン」は、昼間は館内地下空間にあるショップやカフェに光を招き入れます。そこで、透明で色彩をもったグラッフィックをそこに施せば、ステンドガラスのような効果があると考えました。また、夜間は、館内に照明が点灯するので、道行く人の目にグラフィックが浮かび上がります。
また、参道側、西を向いた「ガラス・リボン」ですので、日除けのために、ガラスの後ろには特注の白いレースカーテンを設置しています。そのレース越しに、色彩をともなった光はより柔らかく、繊細になります。
▲ 夜間、館内の照明によりグラフィックが浮かび上がる 撮影:表恒匡
ーーー問2. 三人の作家さんの作品の再現にはIROMIZUを使用しました。選定までの経緯を教えてください。
青木:この美術館では、外壁まわりに緑色をかなり抑えた「高透過ガラス」を多くつかっていて、透明感を強調しているのですが、その一方で、ガラスの存在に気づけず衝突しかねない、という危険も孕んでいます。そのため、もちろん設計時にも衝突防止マークを施しましたが、開館後も、状況を観察しつつ、必要なところにはマークを追加していっています。このマークは目立たないと意味がないわけですが、せっかくの透明なガラスですので、そのデザイン、色を精査する必要がありました。色数の多いIROMIZUから今回は、作品の色と被らず、歴史ある本館の建築に似合う色として、青と白を選び出しました。
ーーー問3. 完成した状態を見ての感想をお聞かせください。
青木:仕上がりには大変、満足しています。それぞれの建築には、それぞれの時間がありますよね。恒久の時を刻む建築もあれば、一世代かけて新陳代謝する建築、季節ごとに装いを変える建築もあります。そしてそのなかで、いつも新しい顔を見せる建築の可能性が、ここのところ、増してきたように思えるのです。ガラスのファサードは、無色透明であるだけでなく、「透明な色面」という表現の場になりつつあります。街を繊細な色をもった光で彩ることができれば、楽しいだろうなと妄想しています。透過光でも反射光でも、繊細な色を出現させるIROMIZUに期待しています。
青木 淳(あおき じゅん)プロフィール
建築家。1956年横浜生まれ。東京大学建築学修士修了。1991年青木淳建築計画事務所(2020年、ASに改組)を設立。代表作に「馬見原橋」(第8回くまもと景観賞)、「S」(第13回吉岡賞)、「潟博物館」(1999年日本建築学会賞作品賞)、「ルイ・ヴィトン表参道」(2004年BCS賞)、「青森県立美術館」、「大宮前体育館」、「三次市民ホールきりり」など。公共建築、商業建築から個人住宅まで、広範な建築ジャンルでの設計のほか、美術家としてインスタレーション作品の制作など、ジャンルをまたいで活動を行なっている。2005年芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。京都市京セラ美術館リニューアル基本設計者(西澤徹夫との共同)であり、2019年4月より同館館長に就任。東京藝術大学建築科教授。
http://as-associates.jp/
「三人のガラス・リボン」展示デザイン / 菊地敦己氏との一問一答
ーーー問1. 今回のデザインを担当することになった経緯を教えてください。
菊地:今回の展示とは別に、京都市京セラ美術館が行っている新進作家の個展シリーズ「ザ・トライアングル」のグラフィックを担当しています。また、京都・亀岡市にある障害者支援施設が運営する「みずのき美術館」のビジュアルアイデンティティ(VI)や、展覧会企画なども手がけたこともあり、そういった経験を買われて、青木さんから依頼があったのだと思います。サイン計画など、建築に関わる仕事は普段から多いのですが、今回のように、美術館のガラス壁面を利用して、展示自体をデザインするというのは特別な機会なので、やりがいがありました。
ーーー問2. ガラス張りのメインエントランスにおける、デザインのコンセプトやポイントはどのような点でしたか?
菊地:異なる3人の作品の独立性を保ちつつも、ひとつのプロジェクトとしての一体感を出すことを心がけました。また、リニューアルした美術館建築の大きな特徴である「ガラス・リボン」の活用の一例を示すことができれば良いなと考えていました。作品の間を同じブルーの帯でつなげていくことで、ガラス・リボン全体が大きな壁画に見えるようにデザインしています。
ーーー問3. 当初は出力メディアを透明シートにする案もありましたが、IROMIZUの白(W-25ic)に変更されました。その理由を教えてください。また、その仕上がりや効果についてはいかがでしょうか?
菊地:ガラス・リボンの内側はカーテンを引くようになっているので、当初は白いカーテンを背にして絵が透明なガラスに浮かんでいる、というイメージを持っていました。しかし、部分的にカーテンがない部分が出てしまうこと、また、出力の色面が思ったより透過性が高いことがわかり、半透過の白いシートに変更しました。IROMIZUには、透過率が微妙に異なる白のバリエーションが豊富なので、透明感を保ちながら、作品の絵をしっかり見せるために適切な濃度の白を選ぶことができました。
▲ 透明度の違い 左:IROMIZU W-25ic 右:FoglasC-001A
菊地 敦己(きくち あつき)プロフィール
アートディレクター / グラフィックデザイナー
1974年東京生まれ。1997年武蔵野美術大学彫刻学科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。主な仕事に青森県立美術館、横浜トリエンナーレ2008のVI・サイン計画、ミナ ペルホネン、サリー・スコットのアートディレクション、『旬がまるごと』や『装苑』、『日経回廊』などのエディトリアルデザイン、亀の子スポンジのパッケージデザインほか。
主な受賞に亀倉雄策賞、講談社出版文化賞、日本パッケージデザイン大賞、原弘賞、ADC賞、JAGDA賞など。作品集に『PLAY』がある。
『CONNECT⇄ 〜芸術・身体・デザインをひらく〜』
「三人のガラス・リボン」展示概要
会期:2020年12月3日(木)~20日(日)
開館時間:10時〜18時(入館は閉館30分前)
会場:京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)ガラス・リボン
原画:登坂京太郎、平野智之、米増初音
デザイン:菊地敦己
企画:京都市京セラ美術館
企画協力:一般社団法人HAPS(Social Work / Art Conference)
協力:中川ケミカル
詳細:https://connect-art.jp/program12/