- 2015.02.05
- 2018.03.09
企画展「はる つくる CUTTING SHEET × spoken words project 」3月30日まで開催
かつてないシート表現
先ず、ご紹介したいのは、CSデザインセンターで始まった、コラボレーション展のDMです。いったい何を撮ったものか、わかりますか?
▲ 「はる つくる」展 DM。メインビジュアルの元となったのは?
ヒントは、今回の企画展が、spoken words project(スポークン ワーズ プロジェクト)とのコラボレーションであるということ。飛田正浩さんが主宰するファッションブランドで、手作業を活かした染めやプリントを施した服づくりに定評があります。ブランド発足20周年目にあたる昨秋、2017-2018秋冬のコレクションで初めてまとまったメンズラインを発表して、業界で話題となりました。
▲ spoken words project 2017-2018 A/W collection『side by side』
改めてDMを見てみましょう。本展のメインビジュアルとなった作品は、そう、布の生地です。黒のキルティングとプリント染めのファブリック、異なる2種類の生地を、ブラックとピンク色のテンタック(粗面対応 装飾用シート)で貼りあわせている部分を写したものになります。
テンタックで布どうしを貼り合わせる??? シートって布に貼れるの? 素朴な疑問がいろいろと沸き起こるのは当然です。これは、かつてない試みの企画展なのですから。
飛田さんの手によって、会場はどのような「仕立て」になったのでしょうか。
装飾用シート×布=?
▲ spoken words project を主宰する飛田正浩さんのプロフィール。アパレルの枠内にとどまらない活動で本展が実現した
今回、使われている装飾用シートはすべてテンタック(TENTAC)です。商業店舗のテント屋根素材の上から、サインなどを貼るために開発されたシートで、粘着力が強く、接着面が粗くても貼れるのが大きな特徴です。
「はる つくる」展の会場には、一見すると、テンタックを使っているとはわからない作品の数々が並んでいます。
▲ 会場の様子。本展の会場構成も spoken words projectが手がけた
▲ テンタック×布=《ベスト》。遠目にはテンタックによる仕立てには見えず、近づいてもどこにテンタックが使われているか容易に判別できない仕上がり
《ベスト》
テンタックの特性を活かし、無縫製によるメンズアイテムを作りました。表層的なところはもちろん、見返しやボタンホールにいたるまで、すべてテンタックで始末、ミシンは一切使用していません。(会場内作品解説より/文:飛田正浩 以下同様)
▲ 《ベスト》のボタンホール部分。ボタンのみ糸で留めているものの、ホールはかがり縫いで始末せず、テンタックを両側から貼って、ハサミで穴を開けている
▲ 4枚の布を貼り合わせて作られた《ベスト》
《ベスト》
(飛田正浩/会場内作品解説より)
始末をあえて見せることを考慮に入れれば、リバーシブルとして着用いただけます。アパレル×テンタックの可能性を多く秘めています。
▲ テンタック×布=《ブラウス》
《ブラウス》
テンタックの接着はあえてデザインのポイントとし、見せてゆくことでドレープとテンタックのコントラストが美しく、さりげなくも新しい感覚を提案するプラウスとなっています。
▲ テンタック×布=《リメイク》 「アパレル業界でも必須アイテムとなりつるある」というリメイクアイテムをジーンズで
《リメイク》
ここではテンタックであえて見せるリメイクをしました。ありそうでなかった斬新でキャッチーなデニムパンツは、使用者自身でもリメイクをすることを促す楽しさを持っています。
切って、貼って、つくる楽しさ
今回の企画展「はる つくる」について、会場で飛田さんに話を聞きました。
「カッティングシートを使って何か企画展をやりませんかという話をいただいたのは、去年の夏でした。こちらのギャラリーの空間を見に来て、過去の企画展のアーカイブも見せてもらいましたが、なにしろ僕はシートに触るのも初めてでしたから、いったいどんな表現ができるのか、その時はよくわかりませんでした。手を動かしながら考えさせてほしいと、シートのサンプルをもらって、アトリエでいろいろと試すなかで、布の上からテンタックを貼ってみると、非常に相性が良いことがわかった。粘着力があるから、革にも貼れる。そこからいろいろな可能性を試していきました」
▲ テンタック×布=《ポーチ》《クラッチバッグ》
例えば、このクラッチバッグのように、フェルトと革という異なる素材どうしをくっつけても、テンタックが間に入ることで違和感がなくなるんですね。しかも、糸で縫わずにできてしまう。服や小物類を作るのにミシンが要らないなんて、アパレル業界の人間にしてみれば画期的なことなんです。作っていてとても楽しかった」(飛田さん談)
飛田さんにとって、ミシンは思い入れの強い道具です。プロとして独立してやっていこうと決意した、美術大学の卒業制作の作品を作ったのがミシンであり、洋裁学校を出たお母さまが、飛田さんが着る服を日々仕立てていた道具でもあります。そのミシンを使わずに、針と糸でもなくカッティングシートのテンタックで、spoken words projectが新たなファブリックの可能性を提示しているのが、今回の会場です。
「僕たちがいつも心がけている、素材そのものの良さを生かしながら、世の中にない新しいものを生み出すことはできたと思います」(飛田さん談)
▲ テンタック×布=《スリッパ/部屋履き》は、平面の型をテンタックで貼りあわせれば完成。
▲ テンタック×布=《クッションカバー》など、コラボ作品は他にも多数。ファッション、小物、インテリアの3つのカテゴリーで、新たな可能性を提示している
▲ テンタック×布=《カーテン》。数種類の布生地を、飛田さんが会場で貼りあわせ、裾上げもテンタックで処理した
装飾用シートの新たな地平を拓く
今年で20回目を数えるCSデザイン賞の主催や、さまざまなジャンルのアーティストとコラボレーション企画などを通して、装飾用シートの可能性を切り拓いてきた中川ケミカル。ファブリックの分野との企画展としては、2014年にLIGHT CUBE EXHIBITION「ひらいて、むすんで ~解体と集合~」を開催していますが、それとは全く異なる趣向となりました。
▲ 夜間は《カーテン》の絵柄が浮かび上がり、美しい。「透過性がある布と、光を通さないテンタックという、相反する素材の組み合わせの妙、色と図形が織りなす面白さを感じてもらえたら」と飛田さん
今回の企画展は、飛田さんが東北芸術工科大学と取り組んでいる「東北芸術工科大学の東北復興支援機構」が主催したワークショップにおいて、シルクスクリーンを使って子どもたちが喜々としてファブリックを作っているさまを見て感動したという話を、CSデザインセンターのデザイナーが聞き及んだのがきっかけです。
▲ 2014年の「福興会議」で作られた手ぬぐい
▲ spoken words project 本の服のスタディ Photo: Isao Negishi
「建築、インテリア、ディスプレイ、ファッションといったさまざまなジャンルを、カッティングシートを媒介に横断的につないで、デザインの楽しさ、何か新しい暮らし方を提示したいといつも考えています。企画展では毎回、こんな表現があったのかと驚いてばかりなのですが、まさかシートで服が作れるとは、思ってもみませんでした。仮に僕らが真似しても、このような美しい仕立てにはなりません。spoken words projectさんらしさに溢れた、アート作品になっているのはさすがです」(中川ケミカル デザイナー談)
「無縫製」がもたらす革新
今回の企画展の核であるキーワード「無縫製」は、飛田さんが昨年8月に発表したファッションソーイングブランド「3min.」が掲げるコンセプトとも重なります。“3分間クッキング”のように簡単に服をつくるという手軽さ、さらには、針と糸が使えなくとも服を作り、自分らしさを表現できるという自由度の高さは、ファッションにある種の革命をもたらすのではないでしょうか。
▲ 「はる つくる」展会場で流れているメイキング映像
今後の展開に注目を!
本展はさらなる発展の途上だと、飛田さんは言います。
「改良の余地はまだまだあると思っています。今回の展示は、実験の途中経過をチラ見せするようなもの。spoken words projectのメンズラインや、リサイクルプロジェクトにも波及していくかも。今後の展開が楽しみです。その萌芽を、会場に見に来てください」
企画展概要
『はる つくる』 CUTTING SHEET × spoken words project
会期:2018年2月5日(月)〜3月30日(金)
会場:CSデザインセンター(東京都中央区東日本橋2-1-6 岩田屋ビル3F)
開廊:10:30-18:30、休廊:土・日曜、祝日
入場無料・予約不要
主催:中川ケミカル
企画・空間構成:spoken words project
CSデザインセンター
http://nakagawa.co.jp/showroom/
spoken words project
http://spokenwordsproject.com/