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カッティングシートがアートに! やなぎみわ「移動舞台車」に翼が出来るまで【後編】

制作の裏側 ぜんぶ見せます!

小説『日輪の翼』に着想を得た、羽根と鱗による細かな絵柄の着色方法として、やなぎさんは企画当初、吹き付け塗装も考えましたが、トレーラーのボックスが大き過ぎて時間がかかること、ただでさえ補強の鉄骨やらで13tもあるのに塗料の重みでさらに増えてしまうこと、設営会場ではじゅうぶんな換気が出来ないことなどから、諸条件をクリアでき、発色も申し分ない装飾用シートのカッティング貼りを採用しました。ピンクの色指定は候補2色のサンプルを搬入後の会場に持ち込み、現場で実際の光量をみた上で決めました。

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頼もしい”助っ人”登場

W7.5m×H2.1m×D2.2mもあるボックスにシートを貼るのは、さすがに一度ではムリなので、重なりしろを入れ、21枚に分けて出力されました。表面にはあらかじめ絵柄にそった切り込みが入っていて、白い色の部分を出すために、不要な部分(カス)を剥がして取り去っていきます。作業に参加したのは、有志ボランティアのヨコトリサポーターと、前述3大学の学生たち。幅広い年齢層から成る彼等は、これまで「装飾用シート」なるものを見たことも聞いたこともありませんでしたが、皆さん、のみこみが早く、手際も良く、この「カス取り」作業は予想以上にスムーズに進みました。

いよいよ「翼」を装着!

カス取りを終えた装飾用シートは、弱い粘着性をもつ半透明の転写シート(リタックシート)を上から被せ、しっかりと付着させておきます。ここから、縦2m、横1.01mの長尺シートを、ボックス本体に貼っていく作業は、熟練の技を有する技術スタッフが行ないます。端に1枚を貼り終えたところから、手順を追ってみましょう。

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装飾シート裏面の台紙(離型紙)および表面のリタックシートが付いた状態で、 完成予想図を確認しながら、マスキングテープで5ミリ分の重なりしろの印を付ける。

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絵柄がぴったり繋がる位置を決めたら、シート上部の両端をボックス本体に付着させて固定し、裏の台紙を一気に引き下ろす。台紙が剥がれるのと同時に、シートがボックスに付着する。

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シート全面を貼り終えたら、表面のリタックシートの上から、工具(プレスタ)を使って、装飾用シートをしっかりとボックス本体に付着させる。これを怠ると、次の工程でリタックシートを剥がすのが難しくなる。

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表面のリタックシートを一気に引き剥がして作業終了。
以下、繰り返し。

「あ・うん」の呼吸で着々と作業を進める、中川ケミカルのSさんとTさん(早すぎて、リタックシートを引きはがす場面を撮り損ねる)。特別な資格がなくともシートは貼れるのですが、聞けば、お二人ともガラスフィルム技能士の所持者でした。

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道具を見せてもらいました。これが「プレスタ」です。布や革を貼った「ガード」の側をシートの表面に押しあてて使います。画材店などで売られている、プラスチックの廉価品ですが、Sさんはガードに別の布を取り付けて使っています。

細部を美しく仕上げる意外なテクニック

そして現場の作業は続きます。コンテナの表面は、内部の鉄骨を補強するために打ち込まれた丸ビスの頭が僅かに出っ張っていて、その上からシートを貼ると、ビスまわりが浮き上がってしまいます。ここで活躍するのが、ドライヤーに似た「ヒート・ガン」という工具です。ビスまわりに熱風をあて、暖めることで一時的に伸びるシートを、プレスタで押さえつけながら、丁寧に貼り直していきます。
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脚立に乗り、ビスまわりを念入りに仕上げるやなぎさん

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装飾用シートが貼られた表面のアップ

それでも現場は思わぬことが起こるもの

ビスの問題は、実は天井面が最も厄介でした。ビスまわりに防水用のシリコン塗装が大胆に施されている事が、 会場搬入後に判明したのです。
シリコンは装飾用シートの裏紙に塗られているものと同じ撥水剤で、貼ることができません。ヨコトリサポーターらの作業開始を3日後に控え、スタッフは頭を抱えましたが、対策として、丸ビスにパッチを貼り、その上から白く塗装し、表面をツルツルに研磨することで、シートを貼れるようにしました。
トランスフォームしない限り、天井面が人目に触れることはありません。だからといって手を抜くことなく、完成度の高い作品に仕上がりました。「やなぎみわ演劇プロジェクトTwitter」でつぶやかれている通り、まさに「閉じれば竜のごとく、開けば鳥のごとく」の勇姿です。

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展開した「移動舞台車」のバックステージ側からの見上げ

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他所では見られない凄い構図のフォトセッション。左端がやなぎさん。台湾関係者との記念撮影(8月2日)

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(左)出資者の名入れイメージ(Motion Gallery やなぎみわデコ・プロジェクトHPより)

(右)画像:Motion Gallery やなぎみわデコ・プロジェクトHPより

「移動舞台車」が”完成”を迎える日

さまざまなハードルを乗り越えて完成したやなぎさんの「移動舞台車」。
ヨコトリ会期終了後は、来年3月から開催される「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015」に再び出展されます。ゆくゆくはこの「移動舞台車」で『日輪の翼』ゆかりの地を旅公演する計画もあり、クラウドファウンディング「やなぎみわデコ・プロジェクト」も新たに立ち上がっています。
出資者には、氏名がトレーラーの外装として装飾用シートで刻まれるなどの特典があります。

「移動舞台車」は この先、 どのように進化していくのでしょうか。
もしかしたら、永遠に「完成」など迎えず、走り続けるのかもしれません。
竜の翼をはためかせて。

 

 

「ヨコハマトリエンナーレ2014」
テーマ:華氏451度の芸術:世界の中心には忘却の海がある
会期:2014年8月1日~11月3日
主会場:横浜美術館、新港ピア(新港ふ頭展示施設)
(注)やなぎみわ「移動舞台車」は新港ピア会場に展示されています
開館:1000~18:00
http://www.yokohamatriennale.jp/2014/
やなぎみわ 公式サイトおよび Twitter
http://www.yanagimiwa.net
https://twitter.com/yanagiza
やなぎみわ Stage Trailer Project(STP) 公式サイトおよび facebook
http://yanaginichirin.blogspot.jp
https://www.facebook.com/events/810330662328548/
台湾「Stage Trailer」展開の様子がわかる早回し動画(撮影・掲出:沈昭良、音楽付き)
https://www.youtube.com/watch?v=Fwr5hL0Iq1E

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