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「色で人の心にエモーションを起こす」エマニュエル・ムホーさんインタビュー 【前編】

下の写真は、2014年に埼玉県川口市にオープンした《巣鴨信用金庫 中青木支店》です。そう言われなければ銀行とはわからない、けれども一度覚えたら決して忘れないような強いインパクトを持ちながら、見る者の気持ちを明るく元気にさせる、美しい外観です。

2_emmanuelle_moureaux_sugamo_shinkin_bank_nakaaoki▲ 《巣鴨信用金庫 中青木支店》 2014
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

4_emmanuelle_moureaux_ABC_cooking_studio▲ 《ABC Cooking Studio》2003-2014
写真:田中秀樹

この建物の建築設計を手掛けたのが、フランス出身の建築家でデザイナーのエマニュエル・ムホーさん。《巣鴨信用金庫》のほかの支店や《ABC Cooking Studio》の空間デザインなど、ムホーさんの作品は一貫して明るく多彩な色をまとい、爽やかなエネルギーに満ちています。そのカラフルな色づかいのルーツはいったいどこにあるのでしょうか。
初来日から数えて今年で20年、今では敬語も完璧に使いこなすムホーさんに、内神田にある事務所で話をうかがいました。

 
 

初来日で「色の洗礼」を受ける

ーー日本に住むことになった、きっかけを教えてください。
1985年に公開された、ヴィム・ヴェンダーズ監督のドキュメンタリー作品「東京画(Tokyo-Ga)」(1985年)や、三島由紀夫の『金閣寺』の影響で、日本と、東京という街に興味がありました。
初めて日本を訪れたのは1995年、24才のときです。ボルドー大学の建築学科に通いながら、フランスの建築家でデザインも手がけるエリック・ラフィ(Eric Raffy)の事務所でも働いていた頃で、大学のいわゆる卒業制作の敷地を東京に設定したんですね。当時はインターネットが普及していない時代でしたから、事前のリサーチが主な目的でした。

 
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ーー初めての日本、その時の印象はいかがでしたか。
衝撃的でした。成田から電車に乗って、池袋で駅を降りたのですが、街がたくさんの色であふれていて、なんてあざやかできれいなんだろうかと。

 
ーー「街の色」というのは、ビルの看板のことですか?
看板だけじゃなくて、建物や自動販売機、さまざまな色です。それらの色がレイヤーとなって重なって、街に奥行き感を与えている。いろんな色が街を構成している。池袋の街を1時間くらい歩いて、そのことをとても強く感じたんですね。色が、何百、何千色も、まるで三次元に浮いているかのように私には見えた。まるで初めて「色を見た」かのような衝撃でした。それで「ここに住もう!」と決心したんです。

1_emmanuelle_moureaux_CORAZYs▲ 《CORAZYs》2016
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
ーー東京の街の色が「きれい」だとは、多くの日本人は思っていないと思いますよ。
みたいですね。でも、東京に限らず、大阪も札幌も、私はきれいだと思うし、魅力的です。頭の中で無意識のうちのきれいな色を抽出しているのかもしれませんが、私がふだん自分のデザインで使っている色が、まさに私が見ている、感じている「東京の色」です。これは、韓国、中国、台湾、香港の都市には感じないことで、日本の都市だけなんです。たくさんの色を感じられて、レイヤーと奥行き感があるというのは。今でも池袋がいちばん好きな街です。

 
04_5_emmanuelle_moureaux_CORAZYs▲ 《CORAZYs》2016
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
 

色で「エモーション」を起こす

ーーそんな衝撃を受けた初来日の年に、フランスで建築家の国家資格を取り、その2ヵ月後再び日本に。
日本語学校に通って、日本で一級建築士の資格を取りました。その間、語学学校でフランス語の先生もやりましたよ。
でも、実際に日本に住んでみて、わかっちゃったんです。日常生活の中では全然、色が使われていないって。建築でも、インテリアでも、プロダクトでも、好まれるのはモノトーン。白や黒が多い。それから、日本人は木(wood)そのものの素材感がとても好きなので、その上から色を塗ったりしません。

 
ーーそうですね、日常的に使う電化製品を「白物家電」と言いますものね。
色が日常的に使われてないとわかった時にはとても驚きましたが、それなら自分が色を使おうと。東京の街並みにからエモーション(emotion)を受けたように、私も色を使って、人々にエモーションを感じてもらえるデザインをしたいと思いました。

そこで編み出したのは「色切/shikiri」という独自のコンセプトでした。
東京の「色」と街並が成す複雑な「レイヤー」、そして日本特有の空間構成「仕切り」から着想を得ました。色を二次元的な仕上げではなく、三次元空間を形作る一番大事な要素として捉える。色を空間の中の三次元的なレイヤーとして考え、このレイヤーを配置し、重ねることで空間そのものを構成していく。色を通して1人でも多くの人にエモーションを感じてもらいたいという想いを胸に、建築、空間デザイン、アートなど多様な作品を創造し続けています。

05__emmanuelle_moureaux_be_fine▲ 《Be Fine》2003
写真:永石秀彦

 
 

初仕事は中川ケミカルの装飾用シートを使って

ーー神田に念願の一級建築士事務所を構えたのが2003年。最初の仕事はメイク・サロンとオフィス空間を隔てるパーテーションのデザイン《Be Fine》でした。
当時は、日本の主な照明メーカーもブランド名も、なにひとつ知らなくて苦労しました。
ただ、この頃には「色切 / shikiri」というデザインの考え方はほぼ出来ていて、高さ1.9メートルのガラスのパーテーションに、中川ケミカルの装飾用シートを貼って、空間を仕切ったんです。たしか東急ハンズでシートを買って、自分で模型も作って、こういうふうにしたいんだと施工業者に見せながら進めました。

ーー事務所のデビュー作が弊社のシートとは光栄です。
以降もいろんなプロジェクトで中川ケミカルの装飾用シートを使っています。NOCS(ノックス)が大好きだったんですよね。

06_2_emmanuelle_moureaux_venice_biennale

07_3_emmanuelle_moureaux_venice_biennale▲ 「ヴェネチアビエンナーレ国際建築展2014」に出展した「shikiri」のコンセプト模型の一部
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
 

色で空間を仕切る

色で空間を仕切る、色で空間をつくる「色切 / shikiri」は、日本の襖や障子などの建具の「仕切り」にも通じるものですが、冒頭でお話ししたような、私が東京に感じている色のレイヤーからインスピレーションを受けて、私が考えた造語です。いろいろと進化していますが、コンセプトとして正式に発表したのは、その翌年にリビングデザインセンターOZONEのサポート展での個展(エマニュエル・ムホー展/Inspirations)が最初になります。
2004年は「色切 / shikiri」と「色間 / shikima」のコンセプトで様々な作品に取り組みました。
秋には、今の事務所の近くでその当時借りていたシェアオフィス[REN-BASE]が、「CET(セントラルイースト東京)04」というイベントの会場になった際に「色切 / shikiri」のコンセプトを展開しています。

 
ーーそれを中川ケミカルの当時のディレクターが見にいって、いたく感動したそうです。
懐かしいですね。その時の出会いが、翌年の東日本橋・馬喰横山界隈を会場とした「CET 05」でのコラボレーションに繋がり、CSデザインセンターの空間デザインを手掛けるきっかけにもなりました。

 
img_disp▲ 「CET 05 Emmanuelle Moureaux インスタレーション」2005
写真:永石秀彦

 
09_img_disp-1▲ 「中川ケミカル CS デザインセンター」2007
写真:永石秀彦

 
CSデザインセンターの空間デザインでは、当時約1000色あった装飾用シートをどう見せるか、サンプルを入れるボックスをどうしようとか、担当者とあれこれ検討しながら作りました。
完成後のこけら落としの企画展「touch the COLOR」と、2年後の2009年の「kaleidoscope」展の2回、一緒に企画展をやらせてもらいました。

 
 

色で空間を着せ替える

ーー2009年の「kaleidoscope」展では、会期中に何度か「色」が変わりました。
そうです。装飾用シートを使って、「色切 / shikiri」のコンセプトを表現しました。

空間が一色ずつに染まって、そして万華鏡(kaleidoscope)のように変化していく。普段気付かない色そのものを意識しその色を再発見するというコンセプトで、5ヶ月間もの間、ひと月毎に展示空間を変化させました。

10_csdc_kaleidoscope01▲ 「kaleidoscope yellow」 (2009.02.17-03.10)
写真:永石秀彦

 
11_csdc_kaleidoscope02▲ 「kaleidoscope red」 (2009.03.17-04.07)
写真:永石秀彦

 
13_csdc_kaleidoscope03▲ 「kaleidoscope green」 (2009.04.14-05.12)
写真:永石秀彦

 
14_csdc_kaleidoscope04▲ 「kaleidoscope blue」 (2009.05.19-06.09)
写真:永石秀彦

 
15_csdc_kaleidoscope05▲ 「kaleidoscope black」 (2009.06.16-07.14)
写真:永石秀彦

 
ーーCSデザインセンターでは昨年の8月から今年の4月にかけて、五十嵐久枝さんによる「空間を色で着せ替えよう!展」を開催しましたが、シートで同一空間を変えていく、そのさきがけとなった企画展です。
イエローに始まって、次にレッド、グリーン、ブルー系の色で空間を変えていって、最後はモノトーン。
実を言うと、当初のプランでは、モノトーンからマルチカラーにガラリと変えてみたかったんですよね。

 
ーーマルチカラーで空間を一新するというデザインは、今年2月にFURLA銀座店でやられたウィンドウディスプレイでようやく実現しました。
イタリアのライフスタイルブランド「FURLA」の銀座店のディスプレイ「flowering kaleidoscope(=春の万華鏡)」ですね。
春の新商品のバッグ「アルテシア」のジオメトリーなデザインにインスピレーションを受けて、三角形を葉っぱや花びらに見立てて、森のような空間をデザインしました。

 
12028699_1180421638636404_6822252486754000561_o▲ 「flowering kaleidoscope」 新緑 / new green 《FURLA銀座店》(2016.02.10-03.08)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

銀座という街を舞台に、ムホーさんはどのようなをデザインを心掛けたのでしょうか。【後編】に続きます。

 
 
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