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奥深い日本の美を現代に伝える箔シート〜伝統と革新が織りなす金と銀の光〜

マテリオシリーズ新製品と美の競演

東京・日本橋、日本橋三井タワーの最上階、38階に位置するマンダリン オリエンタル 東京のロビー空間。ホテルを訪れたお客さまをお迎えし、ゆったりと過ごせる空間に溶け込むようにして、2つのショーケースが並んでいます。4月12日から日本橋界隈で開催中の施設連携プロジェクト「魯山人の食卓 La Table de Rosanjin」と連動した特別展示で、ショーケースに収められているのは、北大路魯山人が手掛けた白磁染付と織部焼です。
 
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闇に浮かぶような金と銀

展示ケースの下の架台部分にご注目ください。縦二連の円と、その上部に書かれた縦横の文言、これが新製品の「箔シート」によるものです。金と銀の円と文字が浮かび上がって見えるよう、 バックは黒いマット仕様のシートを全面貼り(塗装ではないのです)。あくまで展示台は脇役ですが、空間と展示品の「格」を損なわないデザインになっています。
 
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本物の素材による装飾用シート

ケースの中のキャプションプレートの文字も「箔シート」のカッティング文字(以下、切り文字)です。その下の台座部分は「黒銀フレークシート」、どちらも中川ケミカルの「マテリオシリーズ」で、本物の金属を使っているのが特徴です。インクジェットにはない、金属光沢があります。前者は約10cm角の一枚の金箔を貼り合わせて、後者はフレーク状にした黒銀をシート化しています。
「箔シート」による切り文字は、截金(きりがね)細工にも似た美しい仕上がりに。これほど繊細かつエッジが効いた表現は、従来の箔押しでも不可能でした。伝統の職人の技と最新技術の融合により誕生したものです。
 
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金と銀、このふたつのマテリアルは、今回の連携プロジェクト「魯山人の食卓 La Table de Rosanjin」のポスターなど、キービジュアルとして使われています。魯山人の器から着想を得たもので、プロジェクトの根幹を表現している大事なデザインです。コンセプトを詳しく説明する前に、先ずは、今回のプロジェクトの経緯を辿ってみましょう。

 
 

日本が誇る「和食」の美

プロジェクトの一環として、マンダリン オリエンタル 東京に隣接する三井本館の7階、三井記念美術館では、特別展「北大路魯山人の美和食の天才」が6月26日まで開催されています。魯山人の器を中心に約120点の作品が、国内の国公私立の美術館と個人の所蔵先から集められました。この展覧会は、昨春に京都国立近代美術館、続く秋には山口県安来市にある足立美術館で開催され、日本の「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを記念した巡回展です。古くは魚河岸もあり「江戸の台所」と言われた日本橋を舞台に、伝統と革新が交り合う「食の体験」をしてもらおうという試みです。
その出発点と言えるのが、フランスのパリ。2013年にギメ東洋美術館で開催された展覧会「L’art de Rosanjin Génie de la cuisine 1883-1959(魯山人の美 日本料理の天才 1883- 1959)」でした。ヨーロッパでは初となる魯山人の大規模な回顧展であり、独創的な会場構成が、目の肥えたパリっ子たちの賞賛を集めました。
 
DSCF1071© L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
 

Paris発「Rosanjin」


「L’art de Rosanjin Génie de la cuisine 1883-1959」(以下「L’art de Rosanjin」展)を立ち上げ、コミッショナーを務めたのは、東京とパリに事務所を構える太田菜穂子さん。国内外の美術館やギャラリーでのキュレーションや、企業のブランドコンサルティングなどを手がけています。

なぜパリから、なぜ今、魯山人なのか、太田さんに話をうかがいました。
 
_S3J2377 2太田菜穂子氏 © L’art de Rosanjin / KLEE INC
 

「2013年12月に日本の『和食』がユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、その訴求の方向性が、和食イコール一汁一菜、質素、ヘルシーというものでした。登録の前の年からあった、日本からの輸入食材に対する海外の不安感を払拭せねばという側面があったのでしょうが、和食=ストイックというイメージで海外に伝播することに、私はとても違和感があったんですね。なぜなら日本の食には贅を尽くすところもあるし、たくさんの”美”が詰まっている。世界の無形文化遺産に登録されるならなおさら、日本料理の美しさ、盛られる器の美しさ、カウンター越しに見える料理人の立ち居振る舞いといったさまざまな文脈で、日本の食文化の全容を伝えるべきではないか。そのプレゼンテーションの切り口として、魯山人が最適だと考えました」

 
 

北大路魯山人と彼の器

現代の私たちにもその名が知られた魯山人ですが、いったいどんな人物だったのでしょうか。
北大路魯山人は1883年(明治16年)生まれ、1959年(昭和34年)に76才でこの世を去るまで、作陶、絵画、書、篆刻など幅広い分野で活躍し、今でいうプロデューサーとしての才もありました。たいへんな美食家で、料理人としての腕も確かでした。東京・京橋に開業した古美術商の店で、知人相手にふるまっていた午餐が、会員制の美食倶楽部となり、高級料亭・星岡茶寮へと発展します。各地から取り寄せた食材による料理が、魯山人の目利きで選ばれた皿と器に盛られ、最高のかたちで客に供されました。現在、私たちが目にする魯山人作といわれるやきものや漆器のほとんどは、実は料理を盛ることを前提につくられたものなのです。
魯山人は、美と食を同等に扱った時代の先駆者でした。彼の作品や思想を通じて、海外の人に和食の美を伝えようとした太田さんでしたが、「まさか、ギメ(Musée Guimet)でやることになるとは、夢にも思わなかった」とのこと。奇跡のような巡り合わせが重なり、世界でも屈指の日本美術のコレクションで知られるギメ東洋美術館で、「L’art de Rosanjin」展がスタートします。2013年の7月のことでした。

 
DSCF1443© L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
 

現代の感覚で”新しい魯山人”をみせる

「フランスの人たちには、とにかく”かっこいい魯山人”をみせたかった。古めかしく博物館みたいに作品を陳列するのではなく、最先端の技術を取り入れて、現代の価値観で、五感で感じられる会場にしようと。一方ではロジックのプレゼンテーションも重要でした。魯山人の語録にフランス語訳を添えて、場内あちらこちらに配しました。ギメ側の要望でかなり増えています。フランスの人たちはこういうところも熱心に読み解くんですよね」
 
プレゼンボード© L’art de Rosanjin / KLEE INC
 
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802_2627m© L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
© L’art de Rosanjin / KLEE INC
 

 
 

展覧会場を舞台のようにしつらえる

「日本と海外では、展覧会場での美術品の見せ方、考え方に違いがあります。ヨーロッパでは会場をセノグラフィー(Scenography/Scénographie)として位置づけるので、とてもお金をかけるんですね。作品単体ではなく、会場全体で”或る美の宇宙観”を提示しようとする。それを来場者も理解しようとする。ギメとの打ち合わせでも、展示品リストよりも先に会場プランを出してくれと言われました」(太田さん談)。

 
DSCF1103© L’art de Rosanjin / KLEE INC
 
プレゼンボード© L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
 

パリから日本橋へ

現在、三井記念美術館でみられる展覧会は、魯山人が遺した器など作品に焦点を絞った構成になっています(前述の体験型映像展示は別途、昨春開催の「食べるアート展L’art de Rosanjin」にて実施)。パリから脈々と続く言葉の展示は、冒頭でご紹介したマンダリン オリエンタル 東京 での特別展示と、界隈の5店舗で共同開催中のスタンプラリーに受け継がれました。
 
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IMG_7044_s01▲日本橋をめぐり、魯山人の言葉を集める。

 
 

”江戸の台所”から発信する和の文化


東京で「La Table de Rosanjin」を開催するにあたり、太田さんは「やるなら日本橋しかない」と考えていました。「展覧会を鑑賞して、ああ、良かったと満足して館の外に出ると、一気に日常に引き戻されてしまうことってありますよね。せっかく高揚した気持ちが半減することなく、そのまま余韻が続いていくような土地でやりたかったんですね。日本橋なら、観た後で、ちょっと奮発して、良いお皿でも買ってみようとか、何か美味しい和食でも食べて帰ろうかと思い立っても、すぐ目の前に百貨店なり老舗の店が並んでいる。和食に限らず洋食の老舗もある。今回のプロジェクトでは、マンダリン オリエンタル 東京37階に位置するフレンチファインダイニング「シグネチャー」にて、フランス料理を日本の器に盛るという特別メニューも用意しています」
 
_G5A9943© L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
 

和食は食菜の美だけにあらず

「西洋の料理を和の器に盛り付けるのは、実はとっても難しいことなんです」と太田さんは指摘します。西洋の皿は平たく、ナイフの刃をたてても傷がつきにくい磁気製。対して、日本の器は土からこねた鉢や漆の器で、底も深い。これは箸で食べることを前提にしています。つまり、箸という存在が、日本の器を多種多様なかたちにつくりあげ、文化へと発展させたのです(太田さん談)。
「利休箸」をスタンプラリーのノベルティに用意したのは、そんな食文化の奥深さに気づいてほしいという願いが込められているのです。
 
Exif_JPEG_PICTURE© L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
 

現代を生きる私たちに気づきももたらす「金と銀」

「日本の食というものは、日々リニューアルを重ねてきました。魯山人のレシピも当時より美味しくなっているはず。でも、彼の言葉は古びない。今の私たちが読んでも不思議と納得がいくのです」(太田さん談)。
代々育まれてきた自分たちの食文化を改めて見直し、その美しさを再発見 して欲しいという、太田さんをはじめとする多くの人々の想いが実った今回のプロジェクト。パリに始まり、日本橋に至る一連のイベントに共通したビジュアルを今一度、振り返ってみましょう。
パリ展では図録のデザインにも踏襲されている「金と銀」。「闇の中に浮かぶ金と銀」というイメージが、企画当初から太田さんの頭の中にあったそうです。モチーフとなったのが、魯山人の漆器《日月椀》でした。

 
プレゼンボード▲パリ展での《日月椀》の展示 © L’art de Rosanjin / KLEE INC

魯山人の食卓ロゴ     © L’art de Rosanjin / KLEE INC

 
 

闇の中に浮かぶ金と銀

「金と銀は世界的に共通する、価値観を共有できるマテリアルです。ほとんどの国で貨幣に鋳造され、富や権力を象徴するのが金銀です。でも、日本に置き換えてみたときに、私たちが古来より育んできた独特の文化を表現できるマテリアルではないかと思ったんですね」と太田さん。
「例えば、朝焼けと夕暮れの光は照度の数値はほぼ同じだとしても、”彼は誰時(かはたれどき)”あるいは”黄昏時(たそがれどき)”と、私たちは微妙に言い換えたりしますね。陽の光と陰の光、金で表現すべき光と銀で表現すべき光があるのではないでしょうか」。
魯山人の《日月椀》には、一閑塗りの黒漆の上から、金と銀の箔で日輪(太陽)と月が表現されています。今の私たちから見てもかなりモダンで大胆なデザインです。戦争中で窯が使えなかった一時期、陶器に代わって量産された漆器でもあるのですが、職人に作らせるにあたって、魯山人は驚くべき指示を出していました。「金と銀を綺麗に仕上げるな」と。木の素地に和紙を貼って仕上げる一閑塗りは、器の表面に微細な凹凸が残るのが特長です。この上から金箔・銀箔を蒔けば、地の凹凸が出ることは必定なのに、魯山人はどうしてそんなことを言ったのでしょうか。

 
 

10年後に完成する器の美

ここで思い出してみましょう。魯山人の器はそもそも食膳で使うことを目的につくられたものだということを。《日月椀》も今では陳列されるような存在ですが、元来は食器なのです。
「つまり、使いながら10年くらい経ったときに、器が美しくなればいいと魯山人は考えた。それに、地が少し粗い方が、マテリアルの魅力がダイレクトに伝わります。思うに、そのものがパーフェクションだから、私たちは感動するわけではありませんよね? 美と醜は表裏一体。そこに日本の美学がある」と太田さん。金と銀をキービジュアルに据えた理由に納得です。
「これから日本が世界のなかで自分たちなりの居場所ないし立ち位置を見つけて、未来に伝承していくには、自分たちの美がどういうものかをきちんと理解する必要がある。ぜひ日本橋の各会場に足を運んで、日本の美が詰まった食文化を再確認してほしいですね」

 
 

本物が放つ光とちから

「マンダリン オリエンタル 東京のロビーの特別展示では、お伝えしてきたような、パリ展から続くコンセプトと一気通貫している必然性が何より重要でした。展示台の後ろのカーテンや、床のフットライトも含めて、全てが本物のラグジュアリー空間に、魯山人の器と並べてみても過不足なく、嫌味でもなく、自然に目に入ってくる展示。思わず近づいて行きたくなる雰囲気を持った文字にしたかったんです。本物の素材を使って、最先端の技術で作られた『箔シート』は、まさに私が求めていたマテリアルでした」(太田さん談)。
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haku_sheet_8▲箔シート8種類  右上から:純金箔/純銀箔/洋金箔/錫箔  右下から:アルミ箔/銅箔/赤銀箔/青銀箔

 
 

経年変化を味わう

「箔シート」が持つ機能と美しさが最大限に生かされた今回のコラボレーション。中川ケミカルとの仕事を振り返り、マテリオシリーズの魅力を太田さんは次のように分析してくださいました。
「年をとっていく素材、というのが面白いですよね。鉄とか錆とか、ほかにもさまざまなラインナップがあって。展示は6月26日で終わりますが、あのまま置いたら、もっとあの空間に馴染んでいったんじゃないですか。私たち日本人は経年変化を楽しむ文化を持っていますが、それは、そのモノが”本物”だからこそ。日本のものづくりは、自然の美しさにインスパイアされて、研鑽を積んできました。『箔シート』もそのような製品だから、上質な空間の中で調和してくれたのでしょう」
 
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魯山人の言葉

評伝では、容赦のない言葉を人に投げつけることもあったという北大路魯山人。彼が遺した言葉の一説で、今回の記事を締めくくります。マンダリン オリエンタル 東京のロビーに、金の光を帯びて、現代の私たちに静かに問いかけてきます。

La beauté véritable contient immanquablement des éléments nouveaux.

「真に美なるものは、必ず新しい要素を多分に有する」

 
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日本橋・施設連携プロジェクト「魯山人の食卓 La Table de Rosanjin」
会期:2016年4月12日(火)~6月26日(日)

会場:マンダリン オリエンタル 東京、三井記念美術館周辺の各施設
http://lart-de-rosanjin.org

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