- 2020.08.07
- 2014.10.03
カッティングシートがアートに! やなぎみわ「移動舞台車」に翼が出来るまで【前編】
アーティストとのコラボレーション
中川ケミカルではアーティストから「こんなことを実現させたいのだが」と相談されることがよくあります。
「ヨコハマトリエンナーレ2014(以下、ヨコトリ)」の新港ピア会場に出展中のやなぎみわさんの「移動舞台車」は、作品の外装全面が装飾用シート(カッティングシート)で表現されています。
移動舞台車とは?
この作品は、台湾ではいたってポピュラーな「舞台車(Stage Trailer)」と呼ばれるイベント専用のレンタルトラックがモデルになっています。冠婚葬祭はもちろん、選挙の時には演説カーとしても欠かせない存在で、一見して地味なボックスを開けば、 中に照明、音響、カラオケやスモークなどの諸設備を搭載しており、 あれよという間に電飾も煌びやかなステージに早変り。しかも運転手一人で、会場入りから設営、撤収まで事足りてしまう、驚きの「モバイル宴会場」なのです。
写真集『STAGE』 撮影: 沈昭良(Shen Chao-Liang) ヨコトリ会場内ショップで販売中
やなぎさんの「移動舞台車」は中も外も派手ですが、それは”実務”を越えたアート作品だから。日本と台湾の国内法の違いなどから、トラックではなく、トレーラーヘッドと呼ばれる牽引(運転)部分と分離させた特注トレーラーとして、台湾で製造されました。
やなぎさんが「Stage Trailer」に出会ったのは、1998年「台北ビエンナーレ」に出展した際、オープニングパーティの出し物として見たのが最初でした。日本にはない文化として記憶に刻まれ、その数年後に「Stage Trailer」ばかりを写した沈昭良さんの写真集を知り、特別な車両の概要を知って以来ずっと、ある案を温めてきました。中上健次(1946-1992)の小説『日輪の翼』の芝居とセットで作品化し、巡回公演の旅に出たいと。
ヴェールを脱ぐ「移動舞台車」
通常の展示ではボックスを閉じていますが、8月2日に会場に沈昭良さんを招いて行なわれたアーティストトークの後、その驚きのトランスフォームが披露されました。国内でみかけるウィングトレーラーとは全く異なる展開をします。
留め具が外され、ボックスの天井と左右のパネルが開き、運転席側に傾斜していく。
通常の車両では観音扉が付いている後方のパネルが手前に倒れ、その裏側の階段と、ピンクの羽根に包まれた「日輪」が現れる。
ミラーボールが取り付けられ、LED電飾に縁取られた赤い花(中上健次の小説に登場する架空の花「夏芙蓉」)が輝き始め、妖艶な雰囲気を醸し出す。展開が始まってからずっと、場内にはディスコミュージックが鳴り響いている。
前方の間仕切り壁が左右に拡がり、裏にできたスペースは出演者控え室に。
ステージが水平に展開、支脚で固定された後、垂れ幕で覆われる。 垂れ幕は作品の一部で、東北芸術工科大学の学生が描いた「東北画」である。
階段まわりなど細部にわたって装飾が施されている。
ステージ中央に、全長4m40cmのポールが挿し込まれ、5分ほどで展開が完了。
この後、ステージにはプロのダンサーが登場、BGMにあわせて華麗でアクロバティックなポールダンスを披露。来場者の目を釘付けに。
日台 合作「移動舞台車」、海を渡る
「移動舞台車」の基盤部分は、高い技術とノウハウをもつ台湾の工場で製造されましたが、内外を彩る絵柄は、やなぎさんが教鞭を執っている京都造形芸術大学、そしてその提携校の東北芸工大、さらには国際芸術祭にふさわしく、國立台北藝術大学の学生も参加して、共同制作されました。
台湾の工場での「移動舞台車」制作の様子
艶やかな「夏芙蓉」の芳香まで漂ってきそうな内装は、 縮小サイズで描かれた下絵をデジタルデータ化してインクジェット出力した装飾用シートを、台湾の工場で貼り込み、その上からLED電飾を付けました。
台湾高雄港を出て、横浜港本牧ふ頭で受け荷され、トレーラーヘッドと仮ナンバーを付けて市内を走行、車高ギリギリで、新港ピア会場の搬入口から入場したのは7月14日、ヨコトリが始まる半月前のことです。
この時、未だ外装が手つかずのトレーラーは、素っ気ない鈍色の四角い箱の状態でした。ここから短期間で作品を仕上げていきます。