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「色で人の心にエモーションを起こす」エマニュエル・ムホーさんインタビュー 【後編】

銀座の一等地で小さな空間をデザインする

ーー《FURLA銀座店》でのウィンドウディスプレイの仕様について教えてください。
大判のアクリル板を4枚、5か所あるウィンドウの中にレイヤーのように立てて、パーテーションの真ん中には枝だけの白い樹木を1本、その前後2層を三角形の装飾用シートを貼ったパネルで挟みました。若々しい新緑のグリーンからスタートして、3月に花が咲いてお花見に。最後は全部の花が咲くという流れです。

 
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furla2_sakura_emmanuelle_moureaux_03▲ 「flowering kaleidoscope」 桜 / cherry blossom 《FURLA銀座店》(2016.03.09-04.05)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
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furla3_hana_emmanuelle_moureaux_03▲ 「flowering kaleidoscope」 花 / bloom 《FURLA銀座店》(2016.04.06-04.26)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
ーーFURLAとはこれまでも何度かコラボレーションしていますね。
昨年5月にバイヤーとVIPを招いての展示会の会場構成が最初です。同じ年の秋の展示会、その少し前にリニューアルオープンした銀座店のウィンドウディスプレイと、暮れのクリスマスシーズンのウィンドウでもインスタレーションをやらせていただきました。合わせて5回のデザインでは、ストーリーに連続性を持たせました。

 
1_emmanuelle_moureaux_100_colors_10_hanami▲ 「hanami for FURLA」 FURLA 2016春夏コレクション展示会 《増上寺》 (2015.11.26)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
17_emmanuelle_moureaux_100_colors_5_DANCE▲ 「DANCE for FURLA」 FURLA 2015秋冬コレクション展示会 《増上寺》 (2015.05.25)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
18_emmanuelle_moureaux_100_colors_8_en▲ 「en (縁)for FURLA」 《FURLA銀座店》 (2015.10.8-11.20)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
ーークライアントから何か具体的な要望はあったのですか?
具体的な要望は特にありませんでしたが、おおまかなイメージや、展示会のコンセプトは事前に教えていただきました。例えば、2015年春に行われた秋冬コレクション展示会では、その1ヵ月前にミラノで行われた展示会のテーマが「explosion of joy (爆発的な喜び)」だったので、その要素は残しつつも日本では新たなエッセンスを加えて表現しました。会場構成の一部として、会場中央に「DANCE for FURLA」というインスタレーションで全体をまとめました。「DANCE for FURLA」は来日したCEOをはじめ本国の関係者にも見ていただき、気に入っていただけました。

 
6_emmanuelle_moureaux_100_colors_8_en▲ 「en (縁)for FURLA」 《FURLA銀座店》 (2015.10.8-11.20)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
大事なのは、あくまで商品が主役ということ。例えば、どんな色のどの商品を何個ずつどこに置きたいのかを事前に確認して、商品と会場の色がお互い引き立つようにしています。ピンクやオレンジ色のディプレイの下には、この色の商品がいいんじゃないかとか、いろいろと提案もしています。そこが面白いところでしたね。

 
 

3種類のディスプレイに”着せ替え”る

ーー「flowering kaleidoscope」のデザインのポイントを教えてください。
期間が3か月近く、間にバレンタイン・デーもあるので、途中で少しデザインを変えられたら面白いんじゃないかとFURLA側から要望がありました。かなり早い段階から、2009年にCSデザインセンターでやった「kaleidoscope」のように、装飾用シートで空間を変えていくという展示イメージを持っていました。葉っぱや花びらを幾何学的なデザインで展開し、リズミカルに重なり合う色で、万華鏡のように変わりゆく春色の風景を表現することにしました。ただ、スペースが小さく、5か所に分断されているので、そこが毎回、難しいところではありましたね。

 
27_study_mokei▲ 「flowering kaleidoscope」スタディ模型

 
ーー商業店舗では、閉店後の一晩で展示を切り替えないといけません。今回の「flowering kaleidoscope」ではどのように行なったのですか?
今回は、3シーズンのデザインを貼ったアクリル板4枚を、店内5か所のウィンドウごとにあらかじめ中川ケミカルさんに用意しておいてもらって、現場で交換しました。
大変だったのは、幾何学模様を貼っていく最初の作業でした。先ほどお話ししたように、店内5か所のウィンドウにそれぞれ、透明のアクリル板を4枚、通りに面したガラス面と合わせて5つの層があります。このうちどこかひとつでも、水平垂直のラインが少しでも狂うと、見た目が台無しになってしまうんですね。
そこで、中川ケミカルのテクニカルチームに知恵を絞ってもらいました。色のシートを直接貼るのではなく、色が入る三角形の部分だけを空けてマスキングした大きなシートを先に板に貼ってから、空いているところに見せたい色をパズルのピースを嵌めるようにして貼っていく。そして最後にマスキングのシートを剥がして完成、という段取りを踏んでもらいました。残したい色まで一緒に剥がれないよう、マスキングの孔をコンマ数ミリだけ大きくするという裏技も駆使しているそうです。

 
furla1_shinryoku_emmanuelle_moureaux_03写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
 

色が動けば、心も動く

銀座は看板も多くて、たくさんの色にあふれた街です。そのひとつでしかないウィンドウに、どのようにして、大勢の人が行き交うなかで目を向けてもらうかが毎回の課題でした。今回は、小さなウィンドウ空間に、たくさんの色をギュッと凝縮することで、道行く人の心にエモーションを起こせるのではないかと考えました。
装飾用シートは、透明感のあるIROMIZUと、色がはっきりとしたカッティングシートを使っています。最後のマルチカラーは合計50色を使っています。透明色と不透明色を使い、奥の層に配置された色と重なることで、ウィンドウに奥行感を生み出しています。リズミカルに配置された色が木のシルエットと重なり、葉っぱや花々をまとった立体的な木々が現れました。外の通りだけでなく、店の中からの目にも触れるので、両方からみてきれいに見えることが大事でした。

19_emmanuelle_moureaux_puzzle_building▲ 「puzzle building」2013
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

ーー銀座の中央通り沿いの商業店舗では、過去にはポーラ銀座と、ユニクロ銀座店のウィンドウディスプレイも手掛けていますよね。
銀座という街は看板もたくさんあって、情報量が多い立地での仕事はすごく面白かったですね。銀座は街を歩く人のスピードがとても速いのですが、人の動きと一緒に見える景色も移動しますよね。
ウィンドウの中の「flowering kaleidoscope」の色も動くことで、単に目立つだけではなく、心も一緒に動く。 シンプルなかたちだけど不思議な動きをする「en (縁)for FURLA」なんか特にそう。そんなエモーションを起こせるような「動きのあるデザイン」を常に意識しています。

 
 

教育者として

ーー2008年から、山形にある東北芸術工科大学で教鞭を執られています。
3年生と4年生を教えています。ゼミに入った学生には、小さなスケールで「自分の100色をつくる」というカラースタディと、先ほど「flowering kaleidoscope」で説明したような、「色の動く、変わる空間」というテーマで、色と空間の関係性をデザインする、空間と色の2つの課題を2008年から継続して出しています。

 
21_emmanuelle_moureaux_100colors_lab_exhibition▲ 100 colors lab exhibition ‘clouds’ 
(http://www.100colors.jp/より)

 
ーー「100 colors lab」の成果はサイト上で公開されています。なかなかの完成度です。
厳しい先生ですから、私は(笑)。
でも、私は別に色を教えているわけじゃなくて、とにかく「色」に気づいて欲しいんです。学生は1、2年次にいろいろと学びはしますが、私のゼミに入るまで、全くと言っていいほど色を使ってこない。プロダクトをつくるときに、当たり前のように白や黒を選ぶのではなく、もっと色を使ってほしい。私だって、東京の街を見るまでは色を意識したことはありませんでした。色に気づくきっかけを、私は学生たちに与えたいんです。

 
22_emmanuelle_moureaux_100_colors_1▲ 100 colors no.1 新宿三井ビル(新宿クリエイターズ・フェスタ 2013)
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
 

「100色」に込めた願い

ーー「100 colors」は、ムホーさん自身も「新宿クリエイターズ・フェスタ 2013」で作品として発表されています。あのインスタレーションを見たときは圧倒されました。
事務所を開いて10周年という節目の展示でもありました。「色切 / shikiri」コンセプトを空間で表現して、色を体全体で感じて欲しい。たくさんの色を同時に見て、触れて、エモーションを感じて欲しかったんです。

100という数は、100点とか100%とか馴染みがある数字でありながら、数がとても多いというざっくりした意味でも使われます。また、ひとつの空間で100色を同時に見る機会はなかなかありません。要は、「100 colors」というタイトルで、そこにたくさんの色並べてみて初めて、色を意識して、空間にも奥行き感やリズムが生まれると思うのです。そこで初めて、エモーションが生まれるのはないでしょうか。

どうしても、色は「最後の仕上げ」という位置付けですよね。特に空間とか建築では、最後の最後になって、壁の色をどうしようかいう話になる。すごくもったいないことだと思います。私は色を二次元ではなく三次元として捉えています。存在感あるものとして、デザインのいちばん最初に、色による空間構成を考えるのはそのためです。

 
23_emmanuelle_moureaux_bunshi▲ 「bunshi」 WOOD FURNITURE JAPAN AWARD 2016 スパイラルホール(2016.3.4-3.5)
© WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

 
24_emmanuelle_moureaux_sugamo_shinkin_bank_shimura▲ 《巣鴨信用金庫 志村支店》 2011
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
 

色が持つパワーを信じて

ーームホーさんの作品は明るい色づかいが特徴です。日本には萌黄色や浅黄色などの伝統色がありますが、使ったことは?
ないです。もちろん興味はありますし、十二単(じゅうにひとえ)の合わせとか、きれいだなとは思いますが、まだ自分のデザインに取り入れたことはありません。

 
ーーそれはどうしてでしょうか?
私にとって、「元気をくれる色」は「東京の色」だからです。色には、人を自然にスマイルさせる力があると思うんですよ。日本の伝統色はすごく好きですが、空間になってみたときに、私の中ではちょっと違うかなと。今後、取り入れる機会があれば、ぜひチャレンジしてみたいとは思っています。

 
25_emmanuelle_moureaux_shinjuen▲ 「介護老人福祉施設 真寿園」2014
写真:志摩大輔/ナカサ&パートナーズ

 
26_emmanuelle_moureaux_yurariro▲ 最新作は、カラフルでデザイン性に富んだ寝具ブランド「ゆらりろ」(製造・販売:東京西川)
写真:東京西川

 
人に元気を出してもらえる、色にそんなパワーがあると気付かされたのは、最初の作品《Be Fine》が完成したときです。クライアントから言われたんですよね、色によって「purify」される、心が洗われる、純化されるようだと。嬉しかったですね、あの時は。そうやってお客さんに言われてみて初めて、実感したんです。色はエモーションを起こせるんだって。今でも《Be Fine》には足を運ぶのですが、13年前と全く同じことを言っていだだけています。嬉しいですね。

 
ーー私たちメーカーも、異なる文化圏から日本にやってきて仕事をしている、ムホーさんの言葉を通して、私たち日本人には見えなくなっている、感じなくなっている価値観や美しさを再発見できました!
本日はありがとうございました。

 
 
(東京・内神田 emmanuelle moureaux architecture + design にて、2016.6.6 収録)

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