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企画展レポート「空間を色で着せ替えよう!展」3rd KIDS SPACE

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写真は会場の一部のアップです。これはいったい? オレンジ色のペンキ? 滴りおちて、床の上に溜まっている? 後ろの壁やパーテーションにも色が飛び散り、これらがカッティングシート®によるものだと知らなければ、足を踏み入れるのを思わず躊躇してしまいますね。

 
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ショールーム空間がキッズスペースに

CSデザインセンターで「空間を色で着せ替えよう! PLAY with COLORS」が2月から始まりました。シートを使って3つの空間を”着せ替え”ていく企画展の最終回です。問屋街カフェSōgen office(草原オフィス)、そして今回のキッズスペースと、連続して会場デザインを担当した五十嵐久枝さん(イガラシデザインスタジオ代表)に話をうかがいました。

 
L9992685_修正▲問屋街カフェ(8/27-10/30)

L9993059▲Sōgen office(11/16-1/15)

 
 

難題だった「キッズスペース」

「準備期間としては短いわけではなかったのですが、今回のテーマが一番、難しかったです。このショールーム空間は普段、子供達が来ることはない。その場所に、空間に、キッズスペースを設えたとしても、果たして子どもたちが来てくれるのかしらと」。五十嵐さんは悩んだ末に、キッズスペース=”子どもたちが遊ぶところ”というイメージから少し離れてみることに。それが突破口となりました。
「巷にあるようなキッズスペースは、遊具やおもちゃを用意して、遊びましょう、いらっしゃいと迎えるような空間です。そうではないものが出来ないものかと。そこからどんどんアイデアを膨らましていきました」

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表現したのは「時間の経過」

前回までのカフェとオフィスの展示空間では、そこかしこに「人の居場所」が用意されていましたが、今回の「キッズスペース」は少し様相が違うようです。
「色ペンキ入りのバケツの中身をぶちまけた、なにか色の塊をわしづかみにしてパシャッと投げた、フリー・ペインティングで思いっきり遊んだ、その『後』をイメージしています。デザインしたのは、子どもたちがひとしきり遊んでいったその痕跡です。子供達がこの空間に居たんだよという時間の経過をシートで視覚化しました。実際に絵の具やらを使ってここまでやるのは難しいでしょうが、シートならば安心安全、のびのびと表現できます」と五十嵐さん。

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「子ども」「色」「遊ぶ」という主要キーワードを踏襲しながらも、お絵描き、あるいは色塗りというレベルにとどまらず、派手に色が飛び散っている会場はまさに”PLAY with COLORS”。誰もいない状態でも、子どもたちの嬌声が残響となって聞こえてくるようです。

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新色のシートを使って「遊ぶ」

受付カウンターの前板と側板、その後ろ(白い壁面収納の扉面)は、カラフルな不定形の水玉模様のシートで装飾されています。五十嵐さんが「ペンキをぶちまけたような」「水鉄砲で飛ばしたような」と例えていた部分です。新色のペールトーンを切り貼りしたもので、什器の扉面に14色、通りに面したガラス面では10色の計24色が使われ、そしてグラデーションがつけられています。

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場内に置かれたテーブル(計三回の企画展全てに使われたものです)、そして空間を緩やかに仕切るガラスのパーテーションの表面にも、シートによる不定形の水玉模様がみられます。一部にはミラー(鏡)仕様のシートも使われ、これらの高さは床から1メートル10センチに抑え、子どもの目線にあわせています。

場内を巡ってみると、パーテーションがレイヤーとなり、ガラスの向こうに別の色が、さらにはミラーのシートにまた別の色が映り込んで、歩みとともに世界が移り変わっていきます。これも五十嵐さんが用意した「色の遊び」のひとつです。

 

 

「大胆に色を使っていますが、決して攻撃的なイメージを与えないように留意しました。例えば、白い壁面収納が並んだ奥側ですが、淡い新色のペールトーンを指定しました。どんなに”グチャグチャ”な状態にしても、恐ろしい印象にはならずにマイルドな印象に落ち着くように。対照的に、手前のパーテーションではややビビッドな色を選びました。場としては子どもが主役ですが、大と小、色の強弱のさじ加減を調整するなど、空間としては子供っぽくなり過ぎない配慮をしています」(五十嵐さん談)。

受付から見て左側の3枚のガラスに角度がつけられているのも、五十嵐さんが設営の最後までこだわった部分です。来場者が最初に足を踏み入れた時と、場内を回遊したときの見え方の変化を考慮して配置の微調整を繰り返しました。

 
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思わぬ難題

シートのサンプルが並ぶショールームと会場とを仕切るガラス板は、まるで寒い日に結露したように曇り、表面は誰かが指で描いた落書きでいっぱいです。室内が結露したわけではなく、Foglas(フォグラス)のシートで表現されたものです。会場入り口のサインも同様です。
時間が経って結露が滴っている表現など実にリアル。「子どもが描いたような落書き」をコンセプトに、イラストレーターを操る大人(イガラシデザインスタジオのスタッフ)が制作したものですが、これがことのほか難しく、どうしても「大人の絵」に見えてしまうため、何度も何度も書き直したそうです。

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もうひとつのストーリー

この結露の表現は、照明計画ともリンクしています。照明デザイナーの山下裕子さんも三回連続の登板です。「子供たちの気配や時間の経過というテーマを、光でどう表現したら良いか、今回も難題でした」と山下さん。
五十嵐さんの構成案をもとに、山下さんが光でつくったのは「晴れた日の雪景色」です。道路に面した窓から差し込み、白い床にバウンドする外光に、6,500ケルビンというこれまでになく高い色温度の光を重ねて、内と外の空間がひと続きになるようにしています。

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イメージしたのは雪が降った翌朝の光。今日の天気はどうかな、晴れたかな、雪はいっぱい積もったかしらと期待して、結露した窓をキュキュキュとこすってみると、外は見事に晴れわたっていて、子供たちが喜び勇んで飛び出していく、そんな「痕跡」が表現されています。五十嵐さんの空間デザインと相まって、白いゲレンデにカラフルな雪が降り積もっているかのよう。いろいろなワクワクがレイヤーとなって重ねられた「KIDS SPACE」です。

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会場の空気まで”着せ替え”るシート

新色を使っての計三回の会場デザインを振り返り、五十嵐さんの感想は一言、「想像以上に楽しめました」。これまでに何度も店舗などでシートを使っているそうですが、今回の展示では問屋街カフェ、草原オフィス、そしてキッズスペースとまさに三者三様、それぞれで新たな発見があったそうです。「今回の空間展示では、どこかピシッと直線的なイメージがあるシートで、柔らかい曲線で形を作ったり、手描き風や水滴などの”しずる感”が出せたのも面白かったですね」。おっしゃる通り、シートの可能性がまたグッと拡がりました。

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「仮にここがどんなところか全く知らないお子さんが来場したとして、おや、何だかちょっと不思議なところだな、楽しく遊べそうなところだぞと、瞬間的に感じてもらえたらいいと思います」と五十嵐さん。いえいえ、ご謙遜を。大人でも童心に返り、ワクワクする何かが始まりそうな、そんな空間になっています。

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企画展「空間を色で着せ替えよう!展」
空間デザイン:イガラシデザインスタジオ
照明デザイン:ワイ・ツー・ライティングデザイン

会期:
 1st CAFE:2015年8月27日~10月30日(※終了しています)
 2nd OFFICE :2015年11月16日~2016年1月15日(※終了しています)
 3rd KIDS SPACE:2016年2月1日~4月28日
開館:平日10:30~18:30 入場無料
休館:土日曜祝日、年末年始
会場:中川ケミカル CSデザインセンター(東京都中央区東日本橋2-1-6 3F)

CSデザインセンター http://nakagawa.co.jp/showroom/

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