• ARTICLE

企画展レポート「空間を色で着せ替えよう!展」 2nd OFFICE

シートを使って空間を”着せ替え”

東日本橋にある中川ケミカルのショールーム、CSデザインセンターにて、企画展「空間を色で着せ替えよう!」の第二弾が11月16日から始まっています。

人々の暮らしのなかにある実際の空間をモデルに、2015年8月に発売されたカッティングシート®の新色を使って、カフェ、オフィス、キッズルームという3つの空間に”着せ替え”ていく本展は、第一弾の「問屋街カフェ」が10月末で終了し、続いては「Sōgen office」です。

 
L9993059

空間デザインは五十嵐久枝さん(イガラシデザインスタジオ 代表)。一人のインテリアデザイナーが連続して同じ空間の”着せ替え”を行ないます。

 

オフィスへの”着せ替え”

前回の展示では、分銅繋ぎ(ふんどうつなぎ)という古くからある紋様をモチーフに装飾されていた会場は一転、緑の”草原”が広がる空間へと変貌を遂げました。でも、オフィスに草原というのはちょっと不思議な組み合わせです。五十嵐さんは今回の”着せ替え”にどのように取り組んだのでしょうか。

 
L9993280

 

草原オフィス

「前回の展示では、地域性や時間軸をキーワードに据えました。今回は仕事がしやすそうなオフィスとは何かということを主軸に、その受け皿となる会場の特徴とあわせてデザインを考えました。会場はガラスのパーテーションで仕切られた、いわゆるホワイトキューブで、実際のオフィス空間でもよくみられるタイプです。この無機質な”箱”に、何か有機的な要素を与えたら、一日中この空間で働いたとしても何となく気持ちが安らぐのではないかなと。モチーフとして思い浮かんだのが草でした。長い草がゆぅらゆぅらと風でやさしく揺れているような”草原オフィス”が今回のテーマです」(五十嵐さん談)

 
L9993233
 

「本物の草をここまで茂らせるのは実際には難しいことですが、シートであれば可能です。実際のオフィス空間でも、シートで装飾したパーテーションとして応用できると思います」と五十嵐さん。草は短い芝ではなく、人の背丈ほどの長さにこだわった。
「長い草をかきわけ、かきわけ、会場の奥へと足を踏み入れていく、そんなイメージです」。

 
L9993149
L9993127

会場入口から左右に広がるパーテーションをキャンバスに、カッティングしたシートで長草を表現。両端ほど丈が長くなり、向かって右側は次第に色が白く変化していきます。これは、繊細なグラデーションが加わった新色の特長を生かして、季節の移り変わりを表現したものです。 冬になって、だんだんと草が凍っていくというイメージです。

 
L9993186

廊下が続いている受付の左側の空間は「秋のお月見」をイメージしています。白いIROMIZUを全面に貼り、その上から長草のシートで装飾しています。こちらはCSデザインセンターのスタッフが働いている事務所が入っているので、ちょうどいい目隠しに。

 
L9993294
 

現代的なノマドオフィス

会場内に斜めにたてられた6枚のパーテーションの片側には、本展のイメージにあわせて五十嵐さんがデザインしたテーブルとチェアがセットされています。ここがノマド的なオフィスという位置づけです。場内にはスマートフォンの充電設備も用意。腰掛けると、長草や木の陰に潜んでいるような不思議な安心感を覚えます。

 
L9993367
 

会場全体をもう一度、俯瞰してみましょう。丈の長い草の連なりのなかに人が居るような居ないような。立って歩いている人の姿も、最長で165cmある草に隠れて存在が曖昧に。この曖昧さ加減がちょうど良い距離感になっています。

 
L9993066

 

繊細なカラーバリエーション

続いて会場を構成しているカッティングシート®の新色についても詳しくみていきましょう。向かって右側のパーテーションの片側に使われているのが、グリーン系の新色のペールトーンです。中心部から、スプリンググリーン、カナリア(これのみ既存色)、メロン、ミスティミント、セルロイド、ホワイトメロン、サドルグリーンです。反対の廊下側の6枚のパーテーションもカナリアから始まる同じ配列となっています。

 
R0013509
 

会場を覆い尽くしているこの長草は、水辺にみられるような葦(あし)などをモチーフに、イガラシデザインオフィスのスタッフが1枚1枚、画面上で描き起こしたものです。バランスよく、ゆぅらゆぅらと揺れ動いているように配置していくのはさぞかし根気が要ったことでしょう。ついつい似通った形状になってしまいがち。そんなときに大活躍したのが、事務所の近くにあるガーデニング店でたまたま見つけて購入したというススキの鉢植え。会場では、この絶妙な葉先の垂れ下がり加減にも注目してください。

 
sogen_office_01

 

IROMIZUとの組み合わせ

長草の”影”を演出しているのは IROMIZUのグレー色です。階調が100、50、25%と三段階あり、透明感があるのが特長です。
設営前のテストでは、IROMIZUならではのちょっとした変更が生じました。昼間の見え方を確認したところ、窓に近いパネルに貼られた階調50%のIROMIZUの”影”が、外光のなかに溶け込んで、見えにくくなってしまいました。かといって階調を次の100%に上げると透明感が失われる。75%くらいがちょうど良いとわかりました。そこで、25%と50%のIROMIZUを重ね貼りして、五十嵐さんが求めた濃さを実現しました。これは見た目にはわからない、シートならではの”裏技”です。

 

やさしく繊細な新色ペールトーン

新色のペールトーンも、繊細な色調が特長です。上の写真は、脚と面の部分にペールトーンを貼ったテーブルとチェアのセット。会場に柔らかくアクセントを添えています。

 
L9993176
 

下の写真は、受付カウンターを正面からみたところです。前板部分は真ん中から右と左とで「484/ミスティミント」と「483/セルロイド」の2色のペールトーンが使われているのですが、見分けがつくでしょうか。会場でもよほど目を凝らさないかぎり、色が切り替わっているラインはわかりません。

 
L9993054
 

これら48の新色の選定と監修などを行なったのは、日本を代表するデザイナーのひとりである原研哉さん(株式会社日本デザインセンター代表取締役)。開発コンセプトなど詳細は、デザイン情報サイト[ JDN ] に先ごろ公開されたインタビュー記事にまとめられていますので、ぜひそちらもご覧ください。

 
D4S8547
 

さて今回の<Sōgen office>の会場には、ささやかな仕掛けが散りばめられています。前掲の写真にも写っていますが、草の波間に小さな光がキラリ、見え隠れしていますね。全部で8つ、明滅を繰り返しているこの光は、草原に潜むホタルをイメージしたものです。

 
L9993122
 

この可愛らしいホタルをつくり出したのは、前回に引き続いて照明計画を担当した、ワイ・ツー・ライティングデザインの山下裕子さんです。

 
L9993304
 

足下に伸びる長草の影、草原の向こうに高く広がる空、木陰がガラス天板のテーブルに連続し、その下に落ちる木もれ日など、さまざまな情景をホワイトキューブのなかに美しく
浮かび上がらせているのは、山下さんの絶妙なライティングによるものです。「空間を色で着せ替えよう!展」は、色と光の”着せ替え”でもあるのです。

 
L9993163
L9993256
 

カフェからオフィスへ、同じ新色を使いながら、見た目も雰囲気もガラリと変わりました。次回のお題はキッズルーム。五十嵐さんと山下さんのコンビで会場を”着せ替え”ます。鬼が笑う言葉で今年最後のARTICLEを締めくくりますが、今からとても楽しみです。

 
L9993338

来年も引き続き CSデザインセンターをどうぞよろしくお願いいたします。

 
 
 

企画展「空間を色で着せ替えよう!展」
空間デザイン:イガラシデザインスタジオ
照明デザイン:ワイ・ツー・ライティングデザイン
会期:
 1st CAFE:2015年8月27日~10月30日(終了しています)
 2nd OFFICE :2015年11月16日~2016年1月15日
 3rd KIDS SPACE:2016年2月1日~4月28日
休館:土日曜祝日、年末年始(12月30日~2016年1月4日)
会場:中川ケミカル CSデザインセンター(東京都中央区東日本橋2-1-6 3F)
開館:10:30~18:30 入場無料
CSデザインセンター http://nakagawa.co.jp/showroom/

▲